第6章 六話
「……あら、見たの…?」
先生は驚かなかった。バレても気にしないのだろうか。
余裕の表情で、寧ろどこか楽しそうな…。
「…先生も、俺とは一度きりと、理解してくれたと思ったんですが…。」
「…まぁ、そうね。…でも想像以上だったわ。だから番号とアドレスを書いたのよ。」
「…俺は…貴女とのことが公になるのが嫌ですが…。」
「そう。てことは、私のカラダが嫌ってワケじゃないのね…。」
………。
話の終わりが見えない。先生は引く気がない…。
「…高木くん。アナタの気持ちも確かに分かるわ。高木くんはまだしも、私がバレたら速攻クビになるもの。」
「…それが分かっているなら…。」
「でもそんな気持ちなんて、回数を重ねていく度に薄れていくものよ。私も随分と変わったもの…。」
先生は目を伏せる。
「…こんな性格になった自分が悪い、というのも分かってる。…でももう戻れないの。」
どこか寂しげな表情で、俺の頰に手を寄せてきた。
先生の手は少しひんやりとしている。
先生に何があったかなんて知らないし、別に知りたいとも思えない。
「……また俺としたいから、そんなこと言うんですか?」
「…なら何故あの日、アナタは私を抱いたの?…無理に振りほどくことだって出来たはずよ。」
「…………。」
したくはなかった。バレるのも嫌だった。…あれは、気の迷い……。今でも何故一度きりと言って許したのか分からない。
……ほっとけなかったのか……?いや、あのまま別に先生が落ち込んで泣いてもどうでも良かった…。俺には関係ないし、自業自得だから…。
……なんて、結局身体を重ねた。
「…高木くんは、冷たいけど、ホントは優しい人なのね…。」
「…違います。」
「…今まで、同じことがあっても側にいてくれる人なんていなかったわ…。」
…側にいる、というか…ただ身体を重ねただけだが。
「…だから嬉しかったの、とても。…ホントよ?」
背伸びして唇を重ねてきた。
「…側にいて欲しいの。…アナタに恋人がいようと関係ないわ……。私も旦那がいるし…。でもそれでもいいの。…私を愛して?高木くん。」
………矛盾。…矛盾している。
俺には恋人がいて、先生には夫がいて…それなのに愛してほしいって、訳が分からない。…なのに、まただ。振りほどくことが出来るのに出来ない。