第5章 五話
先生はむぅっとして不満そう。
「…そんなに嫌?」
ぎゅうっと俺に抱きついてくる。
そろそろ教室に戻らないとまずい。
「私が誰にでも言うと思ってるんでしょ?」
はい、そうですとは言わないが、無言を肯定と捉えたのか、先生はため息ついて俺から体を離した。
「…高木くんだから言ったのに…。」
「…そうですか。」
「……本当よ?」
「…なんで俺ですか。」
その問いかけに彼女はふふっと笑う。
「…興味があるって言ったじゃない。高木くんの性技に。」
………。
…そういえばそんなこと前にも言っていたな。
「それとも、一ノ瀬さんとで満足?」
満足とか考えたことないが。
篠田先生は確かにスタイルも良いし、美人だ。でもしたいとは思わない。それはきっと教師だからだろう。
バレたらどうなるかわからない。まず確実に篠田先生はキツイ処分を受けるだろう。俺にもなにかしらあると思う。そうなったら親にも迷惑かけるし、なによりも面倒だ。その点、一ノ瀬は学生だからまだバレてもそこまで俺的には問題じゃない。
先生にはバレない自信でもあるのだろうか。
それともバレてもいいとか…。
「…それとも恋人がいるから?」
ちらっと美樹をみる。
相変わらず起きそうもない。
「…ねぇ。したいわ。…いや?」
「…先生はもっと自分の立場を考えたほうがいいですよ。」
なにかあった時、後悔するに違いない。
保健室から出ようとしたが、腕を引っ張られた。
…全く、なんなんだ。
振り返った途端に写り込んできたのは、先生の顔。
唇に柔らかい感触が伝わる。
それは一瞬だった。
……………。
目の前の彼女のクスクス笑う声が何故か耳に響く。
「………。」
唐突すぎて声をだせない。
「…またね、高木くん。」
満足そうにそう言うと、先生は何事もなかったように椅子に座って机に置いてある資料を手に取ってそちらに目を向ける。
「………。」
「………。」
「……失礼します。」
………。