第4章 四話
……泣いているのだろうか。声色からして。
「…でも事実だろ。」
「…どうしてそんなに冷たいの…?」
……一ノ瀬は彼氏のことが好きだったのだろうか。あんなに不満そうだったのに。
まあ落ち込むぐらいだからな。
「…俺に聞いても何も変わらない。…帰る。」
腰を上げて部屋入口の戸まで向かう。
「待って!行かないでっ。」
後ろから抱きつかれる。
次には鼻を啜る音が耳に入る。本当に泣きだした。
………。
行かないでと言われても。俺がここにいて何になるのだ。
遂にはしゃっくりまで上げる一ノ瀬。
「…ヒック……ひとりにしないでっ…。」
更に抱きつく腕に力が込められた。
……自分勝手だ、ほんと。
振り払わず、一ノ瀬が落ち着くまで暫くそのままでいた。
漸く落ちついたが、腕を離そうとはしない。
きつく抱きついたまま。
……暑い。
「…お願い。一緒にいて。…そばにいて…。」
消えそうな声がした後、解放された。
一ノ瀬に向き直ると、俯いたまま。
………。
「……キ…ス、して…。」
「………。」
懲りないな……いや、慰めか……?
「…彼氏はいいのか?」
「……もう、いい…。」
「………。」
当然の如く、彼氏のことは吹っ切れてもいないし…。
そしてまた俺に抱きつく。
「……抱いて。」
そう口にして俺を見上げてくる。
目が腫れぼったい。
そのまま目を瞑って待ってる。
俺は屈んで一ノ瀬の唇に自分のを重ねた。
ただ触れるだけのキス。唇を離すと一ノ瀬がゆっくりと瞼をあける。
そしてまたどちらからともなく唇を重ねた。
暫く触れるだけのキスが続く。わざとらしくリップ音を鳴らして…。