第3章 三話
まさか、まだ帰ってはないだろう。
玄関に行くことにした。
何故ああも自分の意見を押し付けて挙げ句には逃げるのか…。
まったく理解不能だ。
また溜め息ついて、玄関まで行くと一ノ瀬と山中の声がして俺は思わず足を止めた。
「…はっ!?お前、遙人とヤッたのかよっ。」
「…ヤッたわよ。でも遙人は嫌い!」
………。なにを自分でカミングアウトしているのか…。もうどうなっても知らない。山中は口が軽い。直ぐに周りに広まるだろう。俺と会えば根掘り葉掘り聞いてくるに違いない。…面倒くさい。
「…へ、へぇー。マジか…。遙人は美樹ちゃん一筋だと思ってたのにな…。」
「その名前をださないで!腹立つわっ。」
…それにしても声が大きい。
もう少し考えて行動しろよ…。
「…で。遙人って、上手い?」
「…あんたのほうが上手。あんただって彼女よりあたしのほうが上手いって思ってんでしょ?」
「…まーな。で、なに。そんなすり寄ってさ。ヤりてーの?」
ケラケラ笑ってる山中は一ノ瀬の身体しか見てないのが一目瞭然。そしてそれは一ノ瀬も…。
「…よく分かってんじゃん…。」
そして直ぐにチュパチュパという音が聞こえてきたから、おそらくキスしてるのだろう。
………。
鞄はどうするのか。
「……たーかーぎくん。」
呼ばれて思わず後ろを振り向いた。
「……。」
保健の先生がいた。ふふっと笑って距離を縮めてくる。
「…どうかしたんですか?」
その問いに先生は人差し指を唇に押し当てた。
「…静かに。バレたら面倒でしょ?」
そう小声で言ってきた。先生は口角を押し上げてなんだか楽しそうだ。
「……一ノ瀬さんと山中くん…かしら。」
「……。」
ここで先生は俺に視線を移して更に詰め寄ってくる。
「…なんですか?」
頬に手を寄せられる。
先生のシャツから覗く胸の谷間を思わずチラッと見てしまう。
「…赤いわね。」
一ノ瀬に叩かれたからだ。まだ少し痛い。
すると今度は手を取る。
「…ちょっと来て。」
そのまま引っ張られる。
そして保健室へと入らされた。