第3章 三話
………。
目の前の彼女は何故か怒ってる。
俺の制服は乱され、美樹がつけたキスマークとは程遠いが、跡が覗く。
そのことに何故か怒ってるのだ。
何故怒られなければならないのか。
「……これ…美樹がつけたの?」
そうだとさっきから言ってるのに…。
「…赦せない……。」
「………は?」
「…あたしのほうがもっと上手いわ…っ!美樹としたの!?」
その質問はおかしい。恋人なんだから身体を重ねても怒られることじゃない。
「…赦せないっ、赦せない!あたしとじゃ満足できなかったのっ!?」
何故か泣きそうな顔をして俺の肩を揺さぶってくる。
「…ムカつくっ…!遙人だってあたしとのほうが気持ちいいくせにっ!なんで美樹とするのよ!」
「…おい。聞こえるぞ。」
放課後の誰もいなくなった教室。だが、いくらいないとはいえ、こんな怒鳴り声をあげていたら気づかれる可能性がある。
「そんなことどーでもいいでしょっ!!」
どうでもいいことはないと思うが。
相当頭にきてるらしい…。うるさい。
「…別れて。美樹と別れて!」
「…なんで一ノ瀬にそんなこと言われないといけないんだ。」
お前には関係ないだろ。
自分勝手だ。そんな自分は山中としたのに。
俺は別に一ノ瀬が他の人と関係を持っていても別にどうでもいいから気にしないが。
「…あたしとシたのに、他の女とやるなんて!サイテー!」
次の瞬間、彼女の手が振り下ろされた。
頬に痛みが走る。俺は叩かれたのだ…。
しかし何故こんなことするのか。
「…俺とお前は恋人じゃないだろう。」
それなのに何故、こんなことを…。
「うるさいっうるさいっ!!遙人はあたしとだけシてればいいの!」
また三回ほどビンタされる。
いくら女子とはいえ、流石に痛い。
…まあ、それよりも。
「…面倒くさい。帰る。」
一ノ瀬の言っていることが理解できない。
「めんどくさいって何っ!?…サイテー!サイテーっ!遙人なんて嫌いっ!」
そう叫んで俺に鞄を投げつけ出ていく。
「…おい、鞄───。」
思わず溜め息がでる。
……何なんだ。
というより鞄はどうするんだ。
乱れた服を整え、とりあえず一ノ瀬を探すことにした。