第1章 一話
キスしながら俺も結局兄貴と同じみたいなものだと思った。
今こうしてキスされて。拒もうとか嫌とか全然ないのだ。
兄貴がしていることが悪いとか思わない。
どうでもいい…。
そう。今美樹が戻ってきて、バレたとしても、どうでもいい。
別れることになっても…。
そう思う俺は本気で恋人のことが好きだと思っていないのだろう。
特別好きでもない人と身体を重ねることにもそれ程抵抗はない。結局想ってなくても快感は得られる。それでお互いが気持ちよくなれるならいいんじゃないか。
だから兄貴が言うように、身体だけの関係というのは確かに楽なのかもしれない。
そのうち俺は自分からも積極的に舌を絡ませていた。一ノ瀬の後頭部に手を回して…。
「…ん、はァ…ん、んっ…。」
漸く口を放すと、透明の糸がひく。
一ノ瀬は笑って、
「…遙人もなんだかんだシたいんじゃない。」
階段を上がってくる音がする。一ノ瀬は俺から離れた。
「…おまたせっ。」
持ってきたお茶の入ったグラスを机に置く。
そこから暫く勉強会をした。一ノ瀬は途中で飽きてスマホを構っていたが。
俺は美樹に教えていたが、真剣にしていた美樹が勉強会を止めた。
「…恵理ちゃん。…彼氏とはどうするの?結局。」
「……どーするって…悩み中。それよりも彼氏より満足する人みつけたんだよねぇ。」
チラッと俺を見てくるが、美樹は気づいてない。
「…なにそれ。好きな人できたの?」
「……うーん、好きな人っていうかー、分かんないけど。」
「…二股は良くないよ?…やっぱ一途っていいし。」
………。
「…はいはい。美樹は真面目ねー。」
一ノ瀬はきっと心の中で笑っているだろう。
一途だなんて…と。
とかいって、俺も一途のどこがいいのか良くわからない。まあ、興味ないしな。
二人の会話を流すように聞きながら、俺はお茶を口に含んだ。