第4章 懐かしい名前
いつものように練習に明け暮れていると、猫又監督が集合をかけた
どうやらGWの毎年恒例である合宿についてだそうだ
「今年の行き先は…宮城だ!」
「み、宮城?」
「宮城って牛タンの?」
「俺牛タン好きなんだよなー」
唐突に遠い県の名前を出され、全員で困惑する
「なんでまた宮城に?」
クロ先輩が代表して聞くと、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの顔で猫又監督は笑顔になる
「それは勿論、烏野と練習試合するためだよ」
「烏野…」
その名前を反復して自分の頭の中に入れると、どこか聞いた事のある名前だった
「あっちは前の監督と仲良かったんだがな、お互い引退したもんだから疎遠になってしまった…だがあっちの先生から熱心に声かけてもらってなぁ。行かない訳にいかんだろう!」
しっしっし、と心底楽しそうに話す監督を見て選手たちの顔もうれしくなる
ゴミ捨て場の決戦…そう言われる程、烏野高校と音駒高校は因縁のライバルだった
猫又監督が前に監督をやっていた際、烏野の烏養監督という仲の良かった監督がいた事からよく練習試合をしていたそうだ
公式試合でこそ対戦経験はなかったものの、その時期は両校全国レベルの強さを誇っていたと聞く
その時期の選手だった直井コーチを見てみると、同じように嬉しそうな顔をしていた
その日の帰り道は、いつもより騒がしかった
「烏野高校ってどんな学校なんだろー」
「さぁ、宮城らしいし田舎なんじゃねぇの?」
「牛タンうめぇかなぁ…そらって確か音駒に来る前は宮城に住んでたんだよな?烏野って知ってんのか?」
虎に唐突に話題を振られ驚きながら頷くと、犬岡君辺りからおぉーなんて歓声があがる
「どんな学校ですか!烏野高校!」
「名前聞いた事ある位だからなんとも言えないけど…中学の先輩が言ってた通り名は『堕ちた強豪、飛べない烏』…だったかなぁ」
「なんだそれ、弱そうな異名だなぁ」
「うーん…」
烏野高校…確か彼奴が行きたいって言ってたっけなぁ
太陽みたいな明るい笑顔
どんなに打ってもふわっとボールをあげるレシーブ力
そしてなにより、あの元気の良さと男らしさは私も何度か救われた
元気かなぁ…なんて思いながら皆の方を向く
「多分…そこそこ強いと思うよ」