第8章 雛烏への恐怖
第二セットが始まってすぐ、私は雛烏を怖いと感じた
何度も超人速攻を繰り出す翔陽君だが、犬岡君がそれを許さない
何度も何度も止められる…それはスパイカーにとって一番のストレスだ
それだけでも飛びたくなくなるというのに、目の前で阻む壁は自分より少し背の高い人間
「気力を挫く人の壁…打てば打っただけ心は折れて―――」
猫又監督がそうつぶやいた時
「――笑った」
彼は、この状況で笑っていたのだ
楽しそうに、獲物を狩る烏の目をして、笑ったのだ
その視線の先は、私の仲間達
彼らもそのただならぬオーラに一瞬持っていかれそうになっていた
怖い、本能でそう感じた
あんなに小さなスパイカーに、あんなに止められているスパイカーに私達は気圧されたのだ
そして、次のプレーで烏野は変化の兆しを見せた
ずっと目を瞑って攻撃していた翔陽君が、ボールを見たのだ
どうやら彼は、ふつうの速攻ができないらしい
タイムアウトを向こうが取り、話している雰囲気を見るとどうやらふつうの速攻を練習する様子
これは勝つためには私達に有利に事が運ぶということだ
「研磨」
「ん」
「向こう、普通の速攻増やしてくる。でもクロ先輩のときは別だ…あのセッター頭の回転早いから、多分だけど」
「わかった、クロのときは素直に点を取り返すよ」
「うん、よろしく」
研磨にそれを伝えれば、どう作戦を作っているのかは知らないが少し考える素振りをしてからクロ先輩に相談していた
タイムアウトが終わり、彼らの背中を見てふと思う
いつもはうるさくて自己主張の強い、癖のある人が多いチームだけど
試合の開始のホイッスルが鳴った瞬間から、心を一つにして戦う彼らは本当にかっこいい
…なんて、絶対本人たちには言えないけど