第7章 烏の飛び方
試合開始直後、一羽の烏が飛んだ
その烏はまだ雛のように幼く、小さく、弱弱しい烏だ
しかし、コートの誰よりも高く…そして早く飛び上がったのだ
「なんだありゃあ!?」
猫又監督も驚きの声をあげる程の速攻
勿論コートの皆も驚いて口を開けている
相手のベンチを見れば、烏養さん達がニヤリと不敵に笑っていた
私もスパイクを打つポジションだったからこそ分かる、この異常な速さ
一瞬、スパイクとバネがすごい翔陽君に目が行くが…
「あのセッター…すごい……」
「そらも思ったか?あれは天才って奴だろうな…」
「はい、あんな速攻見た事ないです」
猫又監督も認める天才セッター
速攻が無いだろうと思える位置からの、変人並みの速攻
そして何より、翔陽君の目は開いていなかった…スパイカーとしては驚くべき事だが、セッターのトスがドンピシャになるようにされているのだろう
つまり、あの一連の流れは全てセッターの思惑通りという事だ
針の穴に糸を通すような繊細さに、必要なスピード・高さ…恐るべき才能だ
それに翔陽君が目を瞑りながら、完全に相手を信じて跳んでいるからこそできるのだろう…末恐ろしい選手だ
それを研磨がジッと見つめる、彼はいつも通り調子がいいようだ。任せておけば対策を練るだろう
坊主さんのサーブを福永が綺麗に返し、研磨が虎にトスをあげる
微妙に浮いたボールを夕が綺麗にセッターに返した
…やっぱり夕も天才の部類だろう、音がコート上の誰よりも静かだ
綺麗にセッターに返したボールに、犬岡君は翔陽君に回ると見たらしい…翔陽君をマークした
それを見越していたのだろう…セッターは綺麗に逆方向にいるロン毛の人に回す
その人は、高校生とは思えないような威力で腕を振り切った。猫又監督もその威力に驚いて苦笑いをしている
「今のは拾えなくてもしょうがねぇ…」
「あはは…当たったら痛そう」
練習中にあの人の流れ弾がこっちに向かって来たら…と思うだけで痛い
光太郎のも強烈だけど…さっきの見た後だと、こっちの人の方が痛そうに感じてしまう
全てをジッと見つめる研磨を横目に、私はどんどん戦況をひっくり返すのに必要な物を書き殴った