第5章 合宿所
「あー…怪我して辞めちゃったんです、バレー」
「えっそうなの?…悪い事聞いたね、でも元気そうでよかったよ」
及川さんは少し驚いた顔をしてから、優しい笑顔で私の手を握りしめた。この笑顔で女性がメロメロになる理由が少しわかった
「でも今は東京の学校でマネージャーやってます。及川さん達も全国で会えたらいいですね」
「そうだねー!そしたら俺とご飯でも食べに行かない?」
「それはお断りします」
「及川ざまぁ」
「マッキーひどい!まっつんも笑わない!!」
この人達と公式戦で会えるのは全国大会だ
個人的には烏野とゴミ捨て場の決戦を見てみたいものだが、この人の試合も見てみたい…そう思えてくる
「すみません、そろそろいいですか?夕飯作らないといけないんで」
「合宿で来てたんだ!また会えるといいね!」
「はぁ…では失礼します」
ばいばーいそらちゃーん!なんて大声で叫ばれて物凄く恥ずかしかったが、岩ちゃんさんが頭を殴っていたのでそれで許そうと思う
自転車を飛ばして合宿所へ戻り、救急鞄の中に買ってきた物を入れていく
丁度休憩だろう…と思い、体育館に顔を出すと案の定皆は水分補給をしていた
「お、そらおかえり」
「ただいま戻りました!コーチ、お金夕食のときに渡します!」
「あぁ、ありがとな」
「はい!ボトルはやるから芝山君達も練習してきな、虎ー!タオルここ置いとくからねー!!研磨、ほら休憩終わったよ!あと少しだから頑張って!わー夜久先輩、ボールは私がやっておきますから!!」
マネージャーが私の前はいなかったのもあってか、先輩達はマネージャーがいない部活に慣れている
そんな先輩達を、1分でも長く練習に集中できるようにするのが私の役目だ
一人一人に声をかけつつ、仕事をこなしていく
及川さんにはバレーを続けていない事を悲しまれた
確かに私も選手として続けられない事を今でも悔しく思う
逃げた私を責めて、でも一歩進まなかった自分に安堵している
でも私は、ここのマネージャーになれてよかった
それだけは、一生後悔しない思い出になれると確信できる
楽しい、その一心で仕事をこなしていった
「そらがいると全体的に明るくなるよな」
「女の子だからってのもあるのかもね」