• テキストサイズ

【HQ】 羽の堕ちた鳥の生き方

第5章 合宿所



「ここら辺じゃ見ない顔だね、俺の事知ってるの?」


最初に感じた事は、恐怖だ

雑誌で見た事があるとはいえ、初対面の男に後ろから肩を捕まれた経験はない

驚いて自転車を倒しそうになると、それを支えて正面に立たれた。あ、逃げられない



「赤いジャージって珍しいね」

「貴方のも相当珍しいと思いますけど」

「ここら辺の人じゃないでしょ?どこから来たの?」

「東京ですけど何か」

「東京!?でも俺どこかで君の事見た事あるんだけどなぁ」

「気のせいじゃないですか?…もう行っていいですか?」

「待って、思い出させて!絶対どこかで見た事あるから!」



全く面識のない男にそんな事を言われ、恐怖を感じない女性はいないと思う

勿論私は怖いので自転車で轢き逃げしてでも合宿所へ逃げたいが、月バリに載るような人だ。怪我させたらきっとチームメイトが困る

そんな事を悶々と考えていると、及川さんの頭が後ろから引っ叩かれた



「おいクソ川ナンパしてんじゃねぇ、悪いな」

「あ、いえ…ありがとうございます」

「痛いよ岩ちゃん!それにナンパじゃなくて本当に見た事あるんだって!岩ちゃんもない!?」

「はぁ?」

「あ、俺も見た事あるかも」


ひょいっと出てきたピンク頭の人も同じことを言ってくるので流石に不思議に思う、私そんなよくある顔なの?

すると、一人ずっと黙っていた男の人があっと声をあげた


「あ、月バリに載ってた事ある子だ」

「…あー!!思い出した、奏多そらちゃん!そうでしょ?ねぇそうでしょ!?」

「はぁ…そうですけど……」

「やっぱり!俺間違ってなかった!」

「顔がうるせぇクソ川」


バシッとまた叩かれた及川さんは、顔をあげてから目をキラキラさせて私の手を掴んできた


「ねぇ、中2の時ベストスパイカー賞とってなかった?」

「…あ、ベストセッター賞の」

「覚えてた?中2で賞なんてすごいって思ってたんだよー!!しかも月バリに載ってたし!小さい体に精密なスパイク!岩ちゃんにも話したよね?」

「あれか」


他の人達もあーなんて言ってる辺り、結構話題だったらしい
そうだ、及川さんは私が賞を取ったときに同じ場所に並んでいた人…男子だから覚えてなかった



「今はどうしてるの?まだスパイク打ってる?」


一番嫌な質問をされた
/ 47ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp