第7章 新しく私らしく
聞き耳を立てなくても女の子達の会話は聞こえてきた。わざとかも知れないけど。
どうやらバトンパスの練習をしていた相手の男の子を好きな女の子がいて、その子が「夢子ちゃんは顔が可愛いからって、調子に乗ってる!」と言い出して、あれよあれよと尾ひれと背びれが付いて、私は学年1の嫌われ者になってしまったようだった。
なんとかその誤解を解こうと、翌日、なんとか当人に話しかけると泣かれてしまい、私はますます悪者になってしまった。
その後、流れた噂は、援助交際してるとか、先生を全員誑かしてるとか根も葉もないくだらないものだったけれど、持ち物を隠されたり捨てられることが悲しくてつらかった。
毎日上履きに増えていく落書きとか、机に掘られた「シネ」とか、小さな嫌がらせに少しずつ心が壊れていった。
幸い暴力的な嫌がらせは無く、アザなどが出来ることはなかったけれど、今思うとそれくらい分かりやすかったら、もっと早くお母さんに言えたかもしれない。
家では明るく振る舞っていたけれど、一緒にお風呂に入ったお母さんにハゲを見つけられ、私はようやく学校でのことを言った。
お母さんは静かに怒りの表情を浮かべていて、初めて見る顔に背筋がぞっとした、
でもその後すぐにふわりと笑って、貴方を美人に産めて良かった、と言った。
そして泣き出してしまった私に「もう学校には行かなくて良いよ」と言って、育毛剤を塗ってくれた。
そして卒業式「出過ぎた杭は打たれない」ことを証明してくれて、すぐに引っ越し。
制服の可愛い自由な校風の青春学園のために、近くに引っ越してもらった。絶対に行きたくて、必死で受験勉強をした。
父にプレゼントされた瓶底眼鏡をかけて、試験を受け、今の私が完成。
穏やかで少し地味な夜野さん。
目立たないように、でも、自分らしくいられるように。
それと、もう少し人を思いやれるように。