第14章 テニスと王子様
傾く太陽が辺りをオレンジ色に染めている。
先輩も私もオレンジ色に吸い込まれる。
並んでコートに向かうと、いつもの「きゃぁーっ」という嬌声が聴こえた。
先輩と顔を見合わせ、言葉は交わさないまま足を揃えまわれ右をした。
私たちは、いかんせん目立ち過ぎる。
出来るだけ練習の邪魔にならないようにするもの彼女の務めなのだ。
黙ったままそっと校舎側に戻り、部室の裏手に回ると、桃子先輩がいた。
「お。お疲れ、美少女コンビ」
織江先輩が片手を挙げる。
「その呼び方、なんかセンスないわ」
「え~~~じゃあ文学少女たち?」
「まぁ…間違ってはいないですね」
「もう、気遣われると余計つらいんだけど」
桃子先輩があははと声をあげた。
その声に反応するように部室のドアが開く。
「夢子」
リョーマくんが顔を出すと女の子たちが反対側できゃあきゃあと騒いだ。
続いて不二先輩が出てくると、また嬌声が上がる。不二先輩は女の子達に振りかえり、口の前で人差し指を立てた。すっと静かになる。
続けてレギュラー陣が出てくる。
皆制服でも変わりなく素敵だ。
今までほとんどかかわりのなかった人達なのに、いまでは皆お兄さんみたいに仲良くしてくれる、頼もしい存在だ。
顔が綻ぶのが自分でも分かる。
最近自分の笑顔が好きだ。
前と違う。好きと言ってくれる、好きな人がいるって、すごいことなんだ。
お母さんやお父さんに言われるのとは違う。心臓がかゆくなるような、くすぐったい気持ち。
人の噂も75日というけれど、私たちみたいな中学生は、いつだって興味があることにはとことん執着するし、新しい事には飛びつく。
ストーカーの女の子を殴ったせいか、嫌がらせ的なものは今の所ないけど、リョーマくんに迷惑をかけていないかが不安。