第6章 最強の彼女
立派な門をくぐるとお寺が繋がっているようだった。
「越前くんちって、お寺なの…?」
まるで私の問いかけに返事をするように、鐘の音がごーん、と聞こえた。
「さぁ、たぶん?」
たぶん?
「あら、お帰りなさい」
「ただいま」
綺麗な声が聞こえて、髪をシニヨンにまとめた妙齢の女性が出てくる。綺麗な人。
「あ、こんにちは、初めまして」
慌てて頭を下げる。
「こんにちは、貴方が夢子ちゃんね」
「はい、すみません突然…」
「いいのよ、本当に可愛いわね!お人形さんみたい。どうぞ、ゆっくりして行ってね」
「ありがとうございます」
玄関先で挨拶を済ませ、リョーマくんに続いて家に入る。
「お邪魔します」
「ん」
「パスタ茹でたから、部屋に持って行くわ」
「さんきゅー」
「発音悪いわよ」
「…Thanks」
「Sure♪」
「素敵なお母さんだね」
「さーね」
階段を上がり部屋入る。シンプルな間取りはまさしく男の子の部屋って感じ。
目のやり場に困ってなんとなくテニスのアイテムを見ると『はじめての方のダブルス』という本がラケットバッグから覗いていた。
「リョーマくんって、ダブルスもするの?」
想像出来ない。
「ああ、それ?一回桃先輩と組んだんだけど、もう二度とやらない」
「そうなんだ」
こんこんとノックがしてリョーマくんが扉を開ける。
「はい、どうぞ」
「わ、おいしそう、いただきます」
アサリが乗ったパスタはバターと醤油の香りがして食欲をそそった。
「どうぞ召し上がれ」
お母さんはにっこり笑ってすぐに出て行ってしまった。
「いただきます」
「いただきます」
一緒に手をあわせる。
リョーマママのパスタは美味しくて、後でレシピを教えてもらおうと意気込む私にリョーマくんが微笑んだ。
歩くとふわりと踊る自分の髪にも慣れてきて、明日は緊張せずに学校に行けそうだ。
「夢子」
「うん?」
「食べたら、少し打っていかない?」
「え、テニス?」
「うん」
「でも私、ほんとに体育くらいでしかやったことないよ?」
「うん、教えるよ、ヤダ?」
「ヤじゃない」
頭をぷるぷると振ると、リョーマくんがまた嬉しそうに笑った。
「オレのジャージ貸してあげる」
「うん」
…どこで着替えるんだろう。