第6章 最強の彼女
上映が終わるとリョーマくんが先に立ち上がった。
手を引かれ私も立ち上がる。
「ちょっと寝てた」
素直な告白に少し笑ってしまう。
「暗いと眠くなるよね」
「うん」
歩き出しながらリョーマくんが、振り返る。
「次は、どこ行っか」
「えっ」
「あ、もう帰りたい?」
そんな馬鹿な。
首を横にぶんぶん振ると、リョーマくんが笑う。
こんなに笑う人だったんだ。改めて考えると、教室にいる時の王子様はいつも退屈そうだった。
テニスコートでボールを追いかける姿を見たとき、楽しそうだったからすごく驚いた。
とんでもない人を好きになってしまったと思ったけれど、今はなんて楽しいんだろう。
また手をぎゅ、と握ると、リョーマくんが握り返した。
ふと時計を見るともうお昼を少し過ぎたところだった。
「ご飯、食べる?」
「ん、ああ、もうこんな時間か」
「うち、くる?」
「えっ」
「嫌なら、良いけど」
「ううん、言ってないよ!行きたい!」
「たぶん、母さんがいるから、食べるもんあると思う」
ケータイを触り、よし、と呟くとリョーマくんは歩き出した。
パーマをかけた時に似合うと思って買ってあったワンピースを着てきて、本当に良かった。
膝丈までのスカートの裾を確認すると、リョーマくんが立ち止まり振り返った。
「それ」
「うん?」
「その服、似合ってるね」
「えへへ、パーマかけたら似合うと思って、買ってあったんだ」
「じゃあ、着るのは今日が初めて?」
「うん、試着した以来だね」
「へぇ」
「…似合う?」
「うん」
素直に言われてなんだか恥ずかしくなる。
「自信」
「え?」
「自信、持てた?」
「あ、聞いてたの…?」
「うん」
「自信…持てたよ」
握る手に力が入る。
「俺が王子様なら、夢子は?」
「もちろん、お姫様だよ」
自然と笑顔になる。
「サイコー」
「でしょ?こんなに美人がお姫様なんて」
「まぁね」
リョーマくんがにっと笑う。
この笑顔、大好き。
「自信、付きすぎたんじゃない?」
「それくらいがちょうど良いよ。出過ぎた杭は打たれないから」
「なるほどね」
リョーマくんの真似をして、少し悪そうに、に、と笑って見せた。