第6章 最強の彼女
なななななんでここに…
「な…」
「な?」
「なんでここに…」
「迎えに来たよ」
リョーマくんが笑う。本当、笑顔は反則。テニスしてる時と同じで、すごく楽しそう。
でも答えになっていませんよ?
「あ…りがと」
「どうぞ」
施術台でお会計を済ませ、一緒に美容院を後にする。
「ん」
右手を差し出され、手を握るとリョーマくんは迷わず歩き出す。
「どこ行くの?」
「ないしょ」
リョーマくんがいたずらに笑う。
「今日練習は?」
「午前中、昨日の反省だけ」
「そう、だったんだ」
繋いだ手の温かさにまだ慣れない。私より大きな、しっかりした男の子の手。
「緊張してる?」
いまさらって笑われるかな。
「すこし」
「オレも」
「えっ」
リョーマくんはそれには返事をしなかったけど、少しだけ頬が赤くなっていて、代わりに繋いだ手にきゅ、と、力がこもった。
握り返すとまた握られる。
繰り返すだけで、好きの気持ちが伝わる気がする。
しばらく歩くと大きい公園に着いた。リョーマくんは真っ直ぐ建物に入る。
「あ…」
プラネタリウム。
リョーマくんは当たり前のような顔でチケットを2枚出し、係員に渡す。
手を繋いだままなので、引っ張られるように中へ入る。
「星、好きって言ってたから」
「うん…」
驚いて上手く返事ができない。どうしてそんなに、好きにさせるの?
「ホラ」
先に座り、隣の席をぽんぽんと叩く。その仕草、すごく好き。
「ん」
座るとまた手を握られた。
「オレ、プラネタリウムってあんま来たことないや」
「そうなんだ」
囁くように会話していると、星の天井がきらめく。
真昼なのに見上げる夜空はとても綺麗で、ちらりとリョーマくんの横顔を見ると、視線に気付いたリョーマくんと目が合う。
口パクで「きれい」と言うと、リョーマくんが、にっと笑った。
圧倒的な自信に満ちた表情。
握られた手に、少し力を込める。
ありがとう、私、リョーマくんくらい強くなるよ。
そんな気持ちを込めて。