第1章 クラスメイト
「親がね、うるさいし、怖い目にも遭ったことがあるから、基本的には外さないの」
素直に話す。素顔を見られてしまい、ドキドキがおさまる。冷静な自分が顔を出す。女友達の前でも眼鏡は外さない。女の方が怖いから。上履きを隠すなんて可愛いもんじゃ済まないのも、分かってるから。
沈黙が少し怖い。
「知ってた」
思わず顔を上げる。
「どうして?」
「入学式で、校舎の人がいないとこで、親と写真撮ってたでしょ」
「ああ」
お母さんが、写真が撮りたいって騒いだからお父さんが妥協して校舎裏で写真を撮ったのだ。
「越前くんは、美人の私が、好き?」
少し緊張して聞く。
「いや」
顔が強張る。またドキドキしてる。恋に落ちたその日に失恋するなんて、急展開にも程がある。でも、聞いてしまったから後には引けない。
「俺は、料理上手なアンタが好き、かな」
越前くんの視線が、まっすぐ私に刺さる。
「あ」
越前くんが驚いたように小さく言った。
「なんで」
涙の粒が目からこぼれ落ちるのを感じた。
視界が滲んだ。ゆっくり目を閉じ涙をぽたりと落とす。
「ごめん」
越前くんが続けて謝る。眉が少し下がっている。困ってるのかな。謝ることないのに、私、勝手に泣いて、情けない。
「誰にも言わないから、本当、ごめん」
何故か謝罪し始めた王子様に私からも謝る。
「違う、違うから、大丈夫だから、急に泣いたりしてごめん」
越前くんがゆっくりと話し始める。
「俺も、顔が、とか、見た目で好きとか言われるの嫌いだから、少しは、分かる 、つもり」
言葉を選んでくれているのを感じて、また少し涙が出そうになった。
「うん、ありがとう」
嬉しくて笑って答えると、越前くんは驚いた顔をした。
王子様の顔が赤く染まっていく。そして私から視線を外し呟いた。
「ごめん、俺、やっぱり、アンタの顔も、好き」
この人、優しい人なんだなぁ。
「ごめん、今日、私も授業中越前くんの顔に見惚れてたよ」
「ふーん」
越前くんはまだ少し赤い顔だったけど、さっきの不敵な笑いに戻って私を見た。
くすくすと笑い合うと、なんだか距離が縮まった気がした。