第1章 クラスメイト
腕時計に目をやると、休み時間はあと15分だった。
あと15分!越前くんはお弁当を食べたら行ってしまうんだろうか。でも引き止めるのは無理。心臓が持たない。
「あの、越前くん」
「ん?」
目が合う。あ、なんて言おうか忘れた。なんて言おうか忘れた。
なんだっけ。
「なんて言おうか忘れた…」
「そう」
越前くんはお弁当に視線を戻す。
ああ、まずい、変な奴だと思われたよこれ。まあ屋上で1人ご飯食べてる時点で変だと思ってるかもしれないけど。
「夜野」
「あっはいっ」
「うまかった。ごちそうさま」
「良かった。おそまつさまでした」
ぺこりと礼をし合う。越前くんのファンに見つかったら真っ先に刺し殺されそうだ。
ぷしゅ、とファンタを開けている姿だけでもかっこいい。
「かっこいい…」
「えっ?」
しまった、声に出てた!しかも脈絡なさすぎ!思ったことを言ってしまう私、一回しんで!
王子様はそんなこと言われ慣れてるよ!
口をついて出た自分の言葉にうろたえつつ、越前くんを見た。
「越前くん…?」
越前くんは少し顔を赤くして俯いていた。
「あ、ありがと」
「あれ?越前くん照れてる?」
「うるさいよ」
睨むようにこちらを見た越前くんの顔は、やっぱり綺麗で、じっと見てしまった。
「なに」
「いや、なんか、綺麗で」
「綺麗?」
あ、男の子に綺麗は失礼か。私ほんと馬鹿。
「アンタの方が、綺麗だと思うけど」
越前くんはお返しだとばかりに不敵に笑う。
再び顔に熱が溜まる。越前くんがこちらに手を伸ばし私の眼鏡を取り上げた。
「あ」
慌てたが遅かった。
自慢じゃないけど、実は私は美人だ。
小さい頃から顔の造作が良く、誘拐されかけたのも1度や2度ではない。心配した親が私に眼鏡を掛けさせた。レンズの分厚い、少しミラーコートされた、できるだけブスに見える地味な眼鏡。
越前くんが少しも驚かずに私の眼鏡を持ったままこちらを見ていた。
「すげー綺麗だよね」
あ、真顔で改めて言われるとやっぱり照れる。その綺麗な顔で直視されると、照れる。
「これ、男避け?度、入ってないよね?」
越前くんが私の眼鏡をかける。
王子様、眼鏡もお似合いですね、と言いたいところだけど私のダサ眼鏡をかけた越前くんは面白くて、ふふっと笑ってしまった。