第6章 最強の彼女
ブローされた髪は綺麗なウエーブを描き、ふんわりと背中に広がっていた。
「後ろはこんな感じです、どうですか?」
「うわぁ…とっても素敵」
息を飲んで答えると、美容師さんが固まった。
「あの、何か変なとこありますか?」
不安になる。
「いえ、織江さんも、初めてパーマをかけた時、そう言ったなぁと思って」
少し赤らめた頬に、リョーマくんより短めの黒髪が揺れて、美容師さんが微笑む。
「そうですか、先輩みたいになりたくて、パーマかけたんです」
美容師さんがハッと顔を上げる。鏡越しに目が合うと、私をじっと見た。
「なれると思いますよ。夜野さんも、織江さんと同じ、強い目をしてますから」
鏡越しに柔らかく笑う美容師さんが良い人なのを感じた。
「ありがとうございます、私、どうしても自信を付けたかったんです」
美容師さんが目を丸くする。
施術は終わり、スタイリング剤を軽く髪に付けながら、真剣に話を聞いてくれる。
美容師さんって、すごい仕事だなぁ。
「そんなに、お綺麗なのに」
「…でも、これは私が作ったり、用意したものではないですから」
「かっこいいですね」
「えっ」
「そんな風に奢らずにいられる人って、かっこいいと思います」
「ありがとうございます…」
「どうして強くなりたいと思ったんですか?」
「…笑いませんか?」
「もちろん」
「好きな人が出来て、釣り合う自分になりたくて、自信を持って隣にいられる自分になりたいって、思ったんです」
「へぇ!素敵なきっかけですね」
あ、言ってから恥ずかしくなってきた。
鏡の中の私が赤らむ。
「どんな人なんですか?」
「え?」
「好きな人」
「…王子様みたいに、綺麗な人です。一目惚れしちゃったんです」
初めて会う美容師さんに、何を言ってるんだろう。
でも口に出す度にくすぐったくも誇らしく思う。
強くなりたいと思わせてくれる人。
「今日はこのまま、デートですか?」
「うーん、約束はしていないんですけど、連絡してみようかな…」
「誰に?」
鏡越しに、私の後ろから見慣れた綺麗な顔がひょっこり出てきた。
「え?あ!え?」
「ふーん、良いじゃん」
「ありがとうございます」
美容師さんがにっこり笑って答える。