第5章 彼女
休憩時間が終わりリョーマくんの後に続いてコートへ歩くと、リョーマくんがいきなり立ち止まった。
予想していなかった私は背中にとん、とぶつかった。
「ぷ」
リョーマくん越しに前を見ると、誰かが立っている。
横から顔を出すと悲鳴が上がった。
「あーーー!!えーーー!?」
キンと高い女の子の声にかをしかめるリョーマくん。
「りょ、りょ…リョーマさま……」
絶句している小坂田さんと目が合う。
やばいかな?
リョーマくんが面倒くさそうな表情をしている。
「なに?」
小坂田さんが息を飲む。
「リョーマさま、その、その子、誰ですか?」.
「彼女」
うわ、言っちゃった。
「ええーーーー!!!!」
一際大きな声が響く。道行く人が振り返って見る。修羅場だと思われてるかな…
ジャージの裾を掴むと、リョーマくんが微笑んで私を見た。
あ、綺麗な瞳。私、この瞳、大好きだ。
小坂田さんが青ざめた顔で私とリョーマくんを交互に見る。
あ、堂々としなきゃ。
リョーマくんの背中から身体をずらし、小坂田さんと正面に対峙する。
負けません。貴女に。
そう思いながら。
勝ったのか解らないけど、小坂田さんが後ずさる。
リョーマくんは黙ったまま困ったような顔をしている。
「夢子、明日パーマかけたら?」
謎の緊迫状態に相応しくない会話を振るリョーマくんに頷く。
きっかけは、そんなものなのかもしれない。
小坂田さんが踵を返し、走り出す。
瞳には少しだけ涙が浮かんでいた。
ごめんなさい。でもリョーマくんだけは譲れない。他の女の子を好きにさせるような余裕はないの。
「見つかっちゃったね」
何事もなかったようにリョーマくんが言う。
ただ何も言わせなかったようにしか見えないけど、少し安心する。
「…明日には、パーマかけて、学校でも、眼鏡外す」
決心して口に出すと、リョーマくんが柔かく笑った。
そんな顔、他の女の子のまえでしたら、本当に許さないんだから。
「越前くん!早く!集合!」
桃子先輩の声に出しリョーマくんが走り出す。
「夢子、ご馳走さま!」
振り向きざまに言うリョーマくんは本当にかっこよくて、顔が緩む。
「うん、後半も頑張ってね!」
声を出すと、少し勇気が湧く気がした。