第5章 彼女
自分の分もファンタを取り出し、ぷしゅ、と音を立て缶を開けるとリョーマくんが缶の端をコツンとぶつけた。
「お疲れ」
「ん、リョーマくんもお疲れさま」
早起きを労ってくれた気がして、嬉しくて頬が緩んでしまう。
なんでこんなに好きなったんだろう。
炭酸は喉を通りすぎると胃をひんやりとさせて、運動をしていない私には少し冷たすぎたみたい。
「っくしゅ」
ハンカチで抑えたものの、くしゃみを聞かれ恥ずかしくなる。
ちらりと顔を上げるとリョーマくんが惚けた顔をしていた。
「な」
なに!?
「あ…いや、なにそれ、反則」
リョーマくんの顔が紅くなる。
「かわいすぎでしょ…」
帽子のつばを下げ、顔を隠すリョーマくん。
「ただのくしゃみだよ…」
「でも、可愛く見えたんだよ」
そうですか…。
「あーもー、ほんとわけわかんない、夢子って、なんなの、もう」
下を向いたまま王子様がぼやく。
私もわけわかんないよ…顔を覗き込むと狙ったようにこちらに目を向け顔を上げるリョーマくん。
至近距離の綺麗な顔に圧倒され黙ったまま見つめると、リョーマくんが先に目を逸らした。
「リョーマくん」
「なに」
「照れてるでしょ」
「うるさいよ」
「しかも、私のくしゃみで」
そこまで言って可笑しくなってしまい、ふふふ、と笑った。
「なんなんだろ、この感じ」
「どんな感じなの?」
帽子を抑えたような体制でリョーマくんが呟くように言った。
「わかんない、なんかもやもやする。くすぐったい感じ」
「うーん、それは恋ですね!」
ふざけるように答えると、頰をむに、と掴まれた。
「なんれふは」
「恋、ねぇ」
リョーマくんが腑に落ちないように言うから、なんだか昔からの友達みたいな気分になる。
「初恋はいつれふは?」
「1週間前」
「彼女のどこが好きれふか?」
「顔」
「あ、ひおい」
そこまで言って手を離され、頰は自由を取り戻した。
「顔と、どこが好きですか?」
もう一度尋ねると、今度はまっすぐこっちを見られる。
吸い込まれそうな瞳を見つめ返す。
「変なとこが好き、かな」
あ、ひどい。