第1章 クラスメイト
そよぐ風に、気持ちよさそうに目を細める王子様。
時間が止まればいいのに。
「ほえ、いうんえううっえんお?」
「ん?」
王子、聞こえません。
越前くんはパンを飲み込みもう一度言う。
「それ、自分で作ってんの?」
「ああ、うん、そうだよ。お母さんと日替わりで。今日は自分で作ったやつ」
前はこんなにドキドキしなかったのに、なんてことない会話すら緊張して上手く息継ぎが出来ない。
「へぇ、器用だね」
タコさんウインナーのことでしょうか王子。
「そう…かな、ありがとう」
嬉しいけど、嬉しいけど上手く話せないよ王子。
胸が苦しくて、食欲が失せタコさんをつつく。
「それ」
「え?」
顔を上げると越前くんがタコさんを見つめていた。
「それ、食べないの?」
「あ、いや、ええと、急に食欲なくなっちゃって」
しどろもどろ答える。
「ふーん?食べないなら、チョーダイ」
「えっ」
「よく驚くね」
言うが早いか越前くんは、私のタコさんウインナーをひょいとつまんで食べてしまった。
「もーらいっ」
少し楽しそうに笑う越前くんを見て、胸がきゅんと締め付けられた。前はそんな事なかったのに、普通に話せたのに。
「卵焼き」
「えっ」
「卵焼きも食べていい?」
余程お腹が空いているのか、私のお弁当を凝視している。
「どうぞ」
お弁当箱を差し出す。
「ハシ、借りていい?」
「あ、うん」
あ、それ間接キスですよ王子。心の中でつぶやく。
「あ、甘いやつだ。」
「ごめん、甘い卵焼き嫌いだった?」
「いや、すげー好き。甘い方が好き」
卵焼きの話なのに、好きという言葉に過剰反応してしまう。
「それは、良かった…わ、私も甘い方が好きなんだ」
「へぇ」
会話が続かないよー!!!
「もう食べないの?」
「うん、胸がいっぱいで」
あ、何言ってるんだ私。
「ふーん。じゃあ食べちゃっていいの?」
「えと、それで良ければ、どうぞ」
「いただきます」
今更手をあわせる越前くん。その様子が可笑しくてすこし笑ってしまった。
「ふふっ」
越前くんは顔を上げて、小首を傾げる。いいんでしょ?という顔。
「どうぞ召し上がれ、食べかけですけど」
「うん」
昼休みが永遠に終わらなければ良いのに。