第4章 続・恋人
ふくらんだほっぺを指先でつついた。
「かわいい」
口に出すとリョーマくんが少し嫌そうな顔をする。
だって、かわいいんだもん。
学校では見たことのない、無防備な姿。
「はい、ええ、分かりました。また、ええ、是非、はーい」
電話が終わったらしいお母さんがリョーマくんにケータイを返した。
「なんか言ってましたか?」
「お父さんが車で出かけてるから、拾ってもらって帰って来なさいって」
「ワカリマシタ」
「ラッキーだね」
「うん」
リョーマくんの視線が写真立てにうつるのを見る。
「いい写真でしょ?」
お母さんの声は私と似て少し低い。可愛らしい声ではないけど、聞き取りやすくて好き。
「ハイ」
写真は3枚並んでいて、その内の1枚はお母さんがモデルになったばかりの時の宣材写真だ。
リョーマくんがそれをじっと見てる。
「夢子…?」
「ううん、それお母さん」
「えっ」
お母さんが楽しそうに笑う。
「そっくりでしょ?」
「ハイ」
「でもその頃、私17歳だから、今のあなたたちよりは少し年上ね」
「見えないっスね…」
「ありがと」
ウインクするお母さんは楽しそうだ。
「ごちそうさまでした」
「あ、ごちそうさまでした」
「うん、おそまつさまでした。まだ時間かかるだろうし、ゆっくりしていってね」
「アリガトウゴザイマス」
お茶碗を片付け冷蔵庫からカステラを出し、紅茶を淹れた。
「リョーマくん、ドア開けて」
「ん」
立ち上がりドアを開けると、さっきは気付かなかった、カーテンレールに干してある下着が目に入った。
慌てて小さな折りたたみテーブルに紅茶とカステラが乗った乗ったトレイを置いて、他の洗濯物と一緒に抱き抱えクローゼットに押し込んだ。
バタバタと動く私を見て、リョーマくんがきょとんとしていた。
「ドア、しめてー」
誤魔化すように笑いかけると、リョーマくんは素直にドアを閉めた。
ふう。
「あのさ」
「うん」
リョーマくんの言葉はそのまま止まってしまった。
沈黙が気まずいと感じないことが嬉しくて、カステラを口に入れた。
「週末、練習試合があるんだけど…」
「うん」
「見にこない?お弁当持って」
「うん、良いよ」
二つ返事でOKを出すと、リョーマくんの瞳が大きくなった。