第4章 続・恋人
「ただいまー」
ドアを開けると良い匂いが鼻をくすぐった。
「お邪魔します」
リョーマくんが私に続いて扉の内側に入る。
「お帰り〜」
玄関を入ってすぐのキッチンでエプロンを着けたお母さんが振り返る。
「ハジメマシテ」
少し緊張しているのか怒っているような表情のリョーマくんを見て、クスリと笑ってしまった。
いろんな顔、もっと見たいな。
「初めまして、夢子の母です」
お母さんがにっこり笑う。
「越前、リョーマです」
「リョーマくんね、いらっしゃい」
「すみません、急にお邪魔して」
学校での先生に対する態度よりも丁寧に見えて、なんだか面白い。
「良いのよ、荷物置いて、手洗ってきたら」
「ハイ」
「私の部屋に荷物置く?」
「うん」
洗面台で場所を取り合いながら2人で手を洗い、ダイニングへ戻るとサラダにシチュー、唐揚げが並んでいた。
「急だったからあるもので作っちゃったけど、和食が好きだったんだっけ?」
「いえ、シチューも好きッス」
リョーマくんがテーブルに付くと、なんだかわくわくした。
「夢子、着替えてきたら?」
「あ、うーん、そうだね、そうする」
もこもこして手触りのいい(ついでに見た目もかわいい)ルームウェアに着替えた。
膝までのワンピースのような形。フードが付いていて、パーカーみたいに真ん中にポケットが付いている、この秋に買ったお気に入りだ。
シチューの匂いがしてにわかに食欲がわく。
「お腹すいた」
戻ると、リョーマくんとお母さんがすでに食べ始めていた。
「いただきまーす」
「イタダイテマス」
なんだかくすぐったい。
「あ、リョーマくん、おうちに連絡してある?」
「ハイ」
「一応、電話してもいいかしら?」
「…」
「遅いから、一応ね」
「あ、ハイ、大丈夫です」
口の中のものを飲み込んでから話すリョーマくんを見て、なんだか素直で変な感じだった。
リョーマくんはポケットからケータイを取り出し電話をかける。
「……あ、もしもし、母さん?…うん、そう。なんか、一応連絡してって。代わるから」
お母さんはケータイを受け取り挨拶をする。
リョーマくんは話す内容よりご飯に興味があるようで、もりもりと食べている。
「おいしい?」
「おいひいお」
ほっぺが膨らんでリスみたい。