第4章 続・恋人
部活は相変わらず織江先輩と2人きりだった。
掛け持ちをしている生徒が多いから、幽霊部員ばかりだ。
しかも今日は顧問の先生が会議があるから、と早めに部室を追い出されてしまった。いい加減な部活だ。
約束通り織江先輩と毛糸を買いに行く。
広い手芸屋には所狭しと毛糸がならんでいた。私のニットとよく似たグレーの毛糸を見つけ、手に取る。軽い。
「お昼に、越前くんがシルバーって言った時、どうしようかと思ったわ」
「私も思いました。しかもリョーマくんがシルバーのマフラー巻いてるとこ想像しました」
「それは、ちょっと面白い」
口元に手をやりふふふと笑う先輩につられ、私もふふふと笑った。
先輩に押し切られ、カーディガンとマフラーを編むことになった。
初心者にカーディガンは難しいのでは…と躊躇う私に、やらないと上達しないから、間に合わなくても編みなさい、と先輩はピシリと言った。
まぁ、最悪バレンタインまでに編み終われば良いよね。
「バレンタインまでにとか思ってるでしょ?」
「えっ、あっ、いやー、はい」
心を読まれ、言い淀む。
「越前くんの誕生日までに間に合えば良いんじゃない?」
「それ、どっちみちクリスマスなんですけど」
「あ、そっか」
歩き疲れて図書館に移動し、中ではなくベンチで編み物を教わった。西日が差して暖かい。
もともと細い作業は好きなので、すぐに集中できた。
マフラーは半分くらい編めたので、明日にでも出来上がりそうだ。
日が落ちてからは図書館の学習室で編み物を続ける。
先輩のセーターはもうすぐ完成しそうで、見ていた私にやる気を出させた。
「夢子、それ仕舞って!早く!」
学習室なのでひそひそした声だが先輩が突然言った。慌ててカバンに仕舞うと、先輩は立ち上がり、こっち、と口パクした。
ついていくと、図書館の入り口に手塚先輩とリョーマくんが並んで立っている。
「遅くなったか」
手塚先輩が織江先輩に優しく話しかけた。
「ううん、大丈夫」
「夢子がいるって言うから、部長と一緒にきた」
リョーマくんが小さく微笑む。かっこいい。
「うん、おつかれさま」
「お前たちも、こんな時間まで勉強なんて感心だな」
「夢子は勉強が出来るから、あんまり教え甲斐がないけどね」