第4章 続・恋人
教室に戻ると小坂田さんと竜崎さんが廊下で話し込んでいた。
うえ、今日も来てる。
「リョーマくん!」
「リョーマさま!」
2人の嬉しそうな表情に、また自分の余裕のなさを感じる。
自信を持てない自分が恨めしい。
「なに?」
昨日と同じリョーマくんの返事を聞きながら先に教室に入る。
「もー、昨日といい今日といい、どこ行ってたんですかぁ?」
観念して会話に耳を傾ける。気になってもやもやするより、聞いてしまった方が良い。
「別に…関係ないでしょ」
「おばあちゃんがお弁当作っておいでって言ってたから、そのつもりなんだけど…」
「リョーマさまのカッコ良いところ1番前で見るから!」
「ふーん」
反応の薄いリョーマくんに、2人がどんな顔をしているのか妙に気になった。でも、もともとあんな感じだっけ。
普段のリョーマくんの人に対する態度がいまいち思い出せない。
「お弁当、間に合ってるって言ってたけど、あの、好きなもの、教えてほしいと思って」
竜崎さんの言葉に反応して顔を上げると、被せるようにリョーマくんの声がした。
「いや、本当に間に合ってるから」
特になにも言われていないけど、きっと私は応援に行って、お弁当を持って行くのだと思った。
拒否される痛みを知りながら、竜崎さんの泣きそうな顔を連想してしまい自己嫌悪に陥る。
次の授業のノートを引っ張り出して予習をしようと開くと、クラスメイトが何人か寄ってきた。
「今日、出席番号的に当たるからノート見せて〜」
ゆるゆると人が集まり5、6人に囲まれる。
こんな風景も、眼鏡をやめてしまったら、変わってしまうだろう。
迷わないと決めたのに、平穏が好きでつい甘えそうになる。
出過ぎた杭になり、打たれない自分になるんだ。
クラスメイトの何人かは私を眼鏡ちゃんと呼ぶけど、それもなくなるのかな。
自分の髪に触れる。
「あれ?夜野髪伸びた?」
「うん、ずっと伸ばしてるから」
「さらさらだね」
「パーマかけるつもりで伸ばしてるの」
「いいねぇ、パーマ」
顔のことで卑屈になるのは、やめたいから、かけるの。
出過ぎた杭になるって決めたんだよ。