第4章 続・恋人
「部長、見過ぎッス」
リョーマくんが生徒会長に向かってぶっきらぼうに呟く。
「ああ、すまない、少し驚いた」
「私に似てるでしょ?」
織江先輩がにこにこしている。
「ああ、似てるな。苦労しただろう」
心配そうな顔をされた。
「あの、ええと、」
「みんな似た様な苦労、してるのよ」
織江先輩の言葉になんだか切なくなった。
「私は、出過ぎた杭になります!」
あ、しまった。みるみる顔に熱が集まる。ぽかんとしないでください、みなさん。
「なにそれ」
リョーマくん、私いま穴があったら入りたいよ。
「えと、その、お母さんが、教えてくれて…」
お母さんの話を要約すると、織江先輩がポンと手を叩き、昭和なリアクションをした。
「夢子のお母さん、良いこと言うわね」
「立派な人だな」
リョーマくんは隣で『出る杭は打たれる』の意味を調べていた。
なんだか恥ずかしくなる。ここにいるのは、既に出過ぎた杭になった人達だ。
「あの、なんか、すみません」
「なぜ謝る」
「いやぁ、私、なんか、私だけ何もしていなくて、恥ずかしくて」
言葉がまとまらない。
「自分のペースで良いだろう。」
「生徒会長…」
「手塚で良い」
「はい、手塚先輩」
「何か困った事があったら、いつでも言ってこい。越前でも、織江でも良い。溜め込むなよ」
「はい」
「部長って、優しーんスね」
リョーマくんが笑って私の手を握った。
「国光は美人には優しいのよ」
織江先輩が少し意地悪そうに笑う。
「マジっスか」
「うそ」
「織江…」
リョーマくんが噴き出す。
「部長、彼女の前だと全然雰囲気違うッス」
「…越前もな」
「…」
手塚先輩とリョーマくんのやり取りに今度は私と織江先輩が噴き出してしまう。
もっともプロに近い中学生、手塚先輩は、織江先輩の隣にいると、普通の人に見えた。身近に感じる。
時々見かける時の威圧感は少しもなくて、安心した。
「そうだ、リョーマくん、好きな色って何色?」
私のお弁当からたこさんウインナーを持って行こうとするリョーマくんの腕を咄嗟に掴み、私の口に入れさせる。
もぐもぐとたこさんを咀嚼するともう一つのたこさんウインナーが誘拐された。