第4章 続・恋人
またお昼休みに、と約束して、教室へ向かう。
もう少し強くなれたら、堂々とリョーマくんの隣を歩きたい。
一歩、歩みを遅らせリョーマくんの後ろ姿を見る。
小柄だけど、私よりは大きい背中。
『かわいいよね、他に何も出来ないけど』
『調子乗ってる』
『顔だけ女』
『私たちのことバカにしてるんでしょ』
『夢子といると、惨めな気持ちになるの』
言葉が頭に響く。
叫び出したい気持ちを抑えて、下唇を噛んで下を向く。
負けたくない。努力もしないで、他人を見下すような人達には絶対に負けたくない。
集団で1人を攻撃するような人にも、もう絶対に負けたくない。
ピリ、と唇に痛みが走り、噛むのをやめると血が滲んでいた。
指でなぞり、決心に心が震える。
負けたくない。小さく呟いて顔を上げるともうリョーマくんはいなかった。変なところを見られなくて良かった。
顔が整っている、というのはハンデだと思っていた。
…今も、まだ少し思っている。
ほんの少しだけやっていたジュニアモデルを辞めた時、私は必死に勉強をして、青学に入った。
お母さんは親子モデルに憧れていたから、すごく申し訳なかったけど、にっこり笑って「夢子がしたいようにしなさい。夢子の人生なんだから」と言ってくれた。
顔以外は普通、とか言われるのだけは嫌だった。私は私なのに、表面だけで私を、褒めそやし、評価する中身のない人達。
大人でも子供でも、それは同じだった。
自分と異なるものを容赦なく排除しようと攻撃してくる。
お母さんは学校に行きたくない、もう誰にも会いたくない、と叫んだ私を抱き締め、好きなようにしなさいと言った。
『出る杭は打たれるって言うけれど、出過ぎた杭は打たれないのよ』
お母さんの言葉はいつだって正しく私に響く。
どうせなら出過ぎた杭になりなさい、と言って撫でられた私の頭には円形ハゲが3つも出来ていた。
卒業式にはお母さんが綺麗に綺麗にメイクをしてくれて、私は誰よりも可愛い装いで堂々と壇上に立った。
出過ぎた杭は打たれない。
それを教えてあげるわ、と言ったお母さんも、保護者の誰よりも綺麗だった。
写真映えするメイクを施された私はアルバムの中で誰よりも可愛かった。
もう二度とあの場所には戻らない、私をやり直そうと思い、青学に決めたんだ。