第4章 続・恋人
「でも、パーマかけたら眼鏡ない方が絶対かわいいから、そろそろ外す?」
「ほんと?」
「まぁ、夢子が大丈夫なら良いよ」
大丈夫、という言葉に少しひるむ。でも、私は変わりたい。
「私、強くなりたい。誰にも文句言わせないように、がんばるよ」
鏡越しにお母さんと目が合う。
不安そうな表情が微笑みに変わる。
「夢子はお母さんの子だから、絶対大丈夫だよ」
「うん、ありがとう」
綺麗に編み込んでもらったハーフアップを鏡で再三確認して、ニットを羽織る。
「じゃあ、行ってきます」
靴を履いているところで、お母さんが私に小瓶を差し出した。瓶にはうっすらラメが入っていて、キラキラと反射している。
「なぁに?」
お母さんは答えずに小瓶の蓋を外し、私の手を掴み、返した手首に瓶の中身を吹き付けた。
甘い香りが舞う。バニラの香りと、少しの花の香り。
「これ、お母さんが昔使ってた香水。恋した記念に、夢子にあげる」
「かわいい、良い香り」
「いつも身につけなさい。ひと吹きで良いから手首に付けて、首筋と太ももに少し触れるように付けるのよ。」
「うん、分かった」
「今度こそ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
お母さんが優しく笑う。綺麗だなぁ。私もこんな風に笑えるような大人になれるのかな。
早く会いたいな。
あ、返事返してないや。
ケータイを手にすると、やりとりは「そ」で終わっていて自分で少し笑ってしまう。
バスに揺られながら返事を打つ。
『バス乗ったよー、もうすぐ着くよ』
校内ってどの辺でやってるんだろ?
『第二図書室』
第二図書室?あんな何もない教室で筋トレ?
『もう終ったから、第二図書室で待ってる』
あ、なるほど。
『りょーかい』
早く会いたいのに、会えると思うと胸が苦しくなった。
送ったあとに、さっきの返事をさらに送る。
『早く会いたいな』