第4章 続・恋人
手際良く化粧を施すお母さんの顔は、誰が見ても美人だ。
一緒に買い物に行くと店員さんに必ず姉妹と間違われる。
モデルを辞めてお父さんの会社を手伝うようになってからは、ますます若返った気がする。
「夢子は私にそっくりだから、本当に心配」
顔を曇らせるお母さんはやっぱり綺麗だ。リョーマくんも驚くだろうか。
「お母さん、ちょっとだけお化粧して?」
「え?やーよ。あんたそれ以上可愛くなってどうすんの?」
「彼氏にかわいいって言ってもらう」
お母さんが私をじーっと見た。
「いいだろう。その代わり、彼氏がお母さんの好みじゃなかったら別れなさい」
「そんな無茶苦茶な!」
お母さんのお弁当箱におかずを詰め終わったところで、ほんの少しだけお化粧をしてもらった。うすくうすくパウダーをはたいてローズ色のチークが入ると、鏡の中の自分の顔が微笑んだ。
ほんの少し引かれたアイラインは私の目を大きく見せて、少し自信がつく。
他で変な化粧されるよりまし!と、お母さんは時々お化粧してくれる。モデル歴が長いだけあって、お母さんのメイクはとても綺麗だ。
「よし、かわいいよ!」
「あれ?グロスは?」
「あんた彼氏と会うのに唇に化粧してて良いの?」
「あっ…そうか」
お母さんが噴き出す。
「いつの間にか大人になっちゃったのね」
「いつの間にかね」
「髪もやってあげようか」
お母さんが立ち上がり後ろに立つ。
「ポニーテールにして」
「えー?今日の化粧に合わないから嫌」
「だって、彼氏がポニーテール好きなんだもん」
「毎日ポニーテールするとハゲるよ」
「う…」
「今日はハーフアップね。編み込みも入れて可愛くしてあげるから」
「まぁ、かわいいなら良いか」
「素直でよろしい」
お母さんに髪を結ってもらいながら、リョーマくんのことを考える。
「お母さん、私、もう少し髪が伸びたらパーマかけたいんだけど、良いかな?」
「織江ちゃんみたいなパーマ?」
「そうそう!ふわふわした感じ。そしたら、眼鏡も外そうかなーとか、思ってたり…」
鏡越しにお母さんの表情をうかがうと、お母さんは少し不安そうな顔をしていた。
「パーマは賛成だけど、眼鏡はちょっと心配かな」
「うーん、やっぱり?」