第3章 昨日はクラスメイト
少し遠くから『うおおおおおお』と大きな声が聞こえる。桃城先輩と、バンダナの・・確か海堂先輩がラスト1周を争っている。
ほとんど同時にゴールすると、へたり込む先輩達。桃子先輩がそれを見て駆け出した。
「こら、桃!海堂!急に止まらないの!立って!歩く!」
ドリンクを放り投げるように2人に渡し、立ち上がるように促す。
二人は渋々、という感じに立ち上がりドリンクを手に歩き出した。
「まだまだお前には負けらんねーな、負けらんねーよ」
「うるせぇ、今日は俺のが早かっただろうが」
ブツブツと会話する2人を桃子先輩が後ろからバインダーで、ぺぺん、と叩いた。
「身体冷えないように、終わった人からノック準備してね」
「「ウィース」」2人が揃って答える。
マネージャーってかっこいいなぁ。
眺めていると、ベンチの隣に座る織江先輩が私を呼んだ。
「夢子、せっかくだし、一緒に編み物する?」
「え、出来ますかね?というか間に合うのかな…」
「ふふ、教えてあげる。明日の部活終わったら、買い物に行かない?」
「はい、行きます」
即答すると、また先輩がふふ、とわらった。
紅葉が風で舞って、絵みたいだ。
視線を感じてテニスコートに目を向けると、生徒会長がこちらを見ていた。
少し頰が赤いのは、きっとアップのせいじゃない。
織江先輩も視線に気付いて、生徒会長と見つめ合う。
先輩は穏やかに微笑んでいるけど、生徒会長はなんだか切なそうな表情に見えた。
自分が恋をすると、恋をする人の表情が解るようになるんだろうか。
織江先輩が手をひらひらと振ると、生徒会長は我に返ったようにハッとして、練習に戻った。
「あの人、かわいいでしょ」
なんだか犬とか猫のことみたいで、少し可笑しかった。
「恋、してますねぇ」
「笑うと素敵なのよ」
想像してみたが、出来なかった。
「うーん、想像できません」
「あんまり笑わないからね」
先輩が微笑む。
綺麗な人だ。
真ん中で分けた前髪は先輩の頰をくすぐり、後ろ髪はつやつやと光りウェーブを描いている。
「私に絵が描けたら、先輩を描くのにな」
「それ、良いフレーズね」
褒められてなんだか気恥ずかしくなり、横に流した前髪のヘアピンを止め直した。