第3章 昨日はクラスメイト
部室横のまで来るとベンチに織江先輩がいた。女の子達が見学している側を外側からぐるっと回った、彼女達からは見えない位置。
「こんにちは」
「夢子、こんにちは」
文庫を閉じてこちらに首を傾げる織江先輩は、ふわふわの髪をかきあげて微笑む。
綺麗。
「特等席ですね」
「そう、桃子が作ってくれたのよ」
「こうでもしないと、落ち着いて見学出来ないからね」
桃子先輩が笑って洗濯物を干し始めた。
頭上で物干し用のロープが揺れる。
「手伝いましょうか?」
立ち上がろうとすると「「いいの」」と、2人同時に答えられた。
「これは私の仕事だから、見学する彼女はちゃんと王子様を見学してなさい」
桃子先輩が片目を瞑る。
「はーい」
無邪気な声を出すと、なんだかお姉さんが2人出来たような、居心地の良い気分になった。
レギュラー部員のジャージは青と白がメインの、爽やかな色で、リョーマくんにとても似合っていた。アップで外周をしているリョーマくんは、ただ走っているだけなのになんだか楽しそうだった。
テニス部の憧れ、レギュラージャージ。そう桃子先輩が呟く。
「素敵なデザインですよね。運動部って、いいかも」
織江先輩が笑う。
「じゃあ、夢子は女子テニス部に入る?」
「いや、だって入っちゃったら応援とか行けなくなっちゃうじゃないですか」
「あはは、じゃあ私と一緒にマネージャーやる?」
「それは…少し気になりますけど」
現金なやつ、と言われながら、笑い合う。
視線は自分の王子様。
「あー…でも、だめです、私きっと贔屓しちゃう」
「正直者ね!全員の彼女がマネージャーになってくれたら私の仕事、かなり楽になるんだけどなー」
冗談と解っているからより可笑しい。
「じゃあ今彼女がいないレギュラーは、どうなっちゃうの?」
「んー…その計画は全員に彼女が出来ないとダメね」
織江先輩の問いに桃子先輩が真面目な顔で答える。
「ま、手塚部長の洗濯物は織江が毎日やってくれるから、それだけでもかなり楽だけどね!」
「え?良いんですか?そういうの」
「もちろん、個人の持ち物の洗濯だから、誰がしてもOKだよ」