第3章 昨日はクラスメイト
テニスコートに近付くと、今朝よりたくさんの女の子達がそわそわと練習を見学しに来ていた。
みんな一様に恋する表情で、目当ての男の子を見つめている。
恋をするって素敵なことだな、と他人事のように思ったけど、きっと優越感の混じる私の気持ちはあまり純粋じゃない。
ぼんやり女の子達を眺めていたら、後ろからぽんと肩を叩かれた。
振り返るとほっぺたをむに、と突かれた。
桃子先輩がにこにこしている。
「あっ、こんにちは、桃子先輩」
「こんにちは!練習見学に来たんでしょ?」
肩にかからない位のショートヘアが元気に揺れる。
「はい、良いですか?」
「もちろん!」
ホッとして私もつられて笑う。
「これ…」
買ってきたファンタを差し出す。
「自分で渡さなくていいの?」
「はい、とりあえず怖いので」
先輩はあはは、と声に出して笑う。
「そうだね、私も最初は怖かったな」
「えっ」
声を潜める先輩に思わず耳を寄せる。
「私、桃と付き合ってるの」
昨日見かけたリョーマくんと仲の良さそうな先輩の顔を思い出す。セットされた立ち上がった髪の、背の高い先輩。
「あ、あの大きな…」
「そうそう、ツンツン頭の桃先輩」
ふふっと笑う桃子先輩は綺麗で、幸せそうだった。
「私、マネージャーだから、最初はそれだけで随分嫌がらせされたからさ」
あまり明るくない内容なのに、先輩はけろっと言う。きっと大変だっただろう。
嫌な記憶を笑って話せるようになるのは、なんだか切ない。周りより少し大人になってしまったような気持ちになる。
元気な雰囲気の先輩だけに、なんだか私の方が哀しい気持ちになった。
「あ、泣かないで」
頭をぽんぽんと撫でられ顔を上げると桃子先輩が困ったように笑っていた。
「大丈夫だよ、好きっていう気持ちをちゃんと伝えられずに群れてる奴らなんか、全然怖くないから」
優しい先輩は、私がこの先に不安を持ったように見えたのだろう。
「違うんです、先輩がすごいなって、思って」
「え」
「だって、かっこいいです。好きな人に守ってもらおうとかじゃなく、自分で戦う感じが、すごいなって、思って…」
驚いた顔をした先輩は、今朝のごとく私をぎゅう、と抱きしめた。