第3章 昨日はクラスメイト
教室の入り口に竜崎さんとツインテールさんがいる。リョーマくんより先に2人を見つけてしまい、なんとなく嫌な気持ちになった。
先を歩くリョーマくんは、廊下をすれ違う同級生と挨拶なんてしちゃって、全然気付いてない。
全然遠慮のない声で叫ぶツインテールさん。
「リョーマさま!」
リョーマくんの視界に2人が入る。
一瞬、自分がイラっとするのが分かった。
私の心が狭いってことまで教えてくれるなんて、恋ってすごい。会話を聞かないよう、リョーマくんを追い越して教室に入る。でもつい入り口で視線を移してしまった。
竜崎さんの顔がほころぶ瞬間を見てしまい、勝手にダメージを受けた。あれは恋をしてる顔だ。嬉しそうな表情は甘いけど切なげで、何故か私が苦しくなった。
後悔しながら教室に入り、輪を作っていた友達の中にさりげなく混じると、よりによって竜崎さんの話題だった。
「この前3組の男子に告白されてたよね!」
「その噂聞いた!結構イケメンだよね、あのバスケ部の…」
「えーっ断っちゃったの!?もったいなーい!」
いつもと変わらない、何気ないうわさ話なのに、なんだか素直に笑えず、頷いて話に耳を傾ける。明らかに意識が教室の外に行ってしまい、一生懸命うわさ話に相槌を打つ。
それでも、廊下にいるリョーマくんの声が鼓膜を揺らす。
「なに?」
冷たくも親しげでもない、ただの問いかけなのに、他の女の子と話しているという事実に胸のあたりがもやもやとしている。
「あっあのね、リョーマくん、今度の練習試合、どこでやるのかな」
緊張した様子の竜崎さんの声。
普段なら教室の雑音に紛れてるだろうに、神経は驚くほど耳に集中している。
「知らない、週末だよね?他の奴なら知ってるんじゃない?」
次の練習試合の相手を知らないと言い切るリョーマくんの態度に少し笑いそうになった。尊大なのは、どこでも一緒なんだ。
「じゃ」
短く言ってリョーマくんが教室に入ってきた。
なんとなく気まずくて、女子の輪に混ざったまま、本鈴で席に戻った。
竜崎さんの長い三つ編みは、たぶん解くと織江先輩くらいの長さだ。
ポニーテールの毛先を触り、お行儀悪く授業を受ける。早く伸びてほしいな。
先輩と同じ髪型にしたら、なんだか強くなれる気がするから。