第1章 クラスメイト
屋上へ続く階段をとんとんと駆け上がり、重い扉を開けると、既に何人かの生徒がぽつりぽつりと陣取っていた。
階段を上がるのが面倒なのか、うるさいグループは何故か屋上には来ない。
だいたいが私と同じ様に1人でご飯を食べたい派、またはカップル。
フェンス際まで行き、座り込む。横にカバンを置いて、本を取り出しお弁当を広げる。
昨日買ったばかりの好きな作家の新作。わくわくしながら本を開いた。恋愛小説が好きだ。甘い言葉が好きだ。
砂糖菓子の様に繊細な文章にうっとりしながら読み進めたところで、越前くんの顔が脳裏にちらついた。
ああ、さっき、私は恋に落ちたんだ。
考えれば考えるほど越前くんの綺麗な瞳が鮮明に浮かぶ。
集中出来そうもないので本をカバンへ戻した。
首を横に軽く振り、自分に言い聞かす。
何もいきなり難易度の高い人を好きになることないのに。
越前くんと言えばあのテニス部のレギュラー達の中でも一目置かれ、2年生や3年生まで彼の恋人の座を狙っているという噂だ。
単なるクラスメイトの私がどうこう出来るレベルではない。
諦めるのは切ないけれど、遠くで眺めて胸を痛めるくらいなら許してもらえるだろう。