第3章 昨日はクラスメイト
「あんまり乗り出すと、落ちるよ」
リョーマくんは少しむっとした顔をしていた。
「うん」
「じゃあ、またね」
先輩の綺麗な声に返事をする。
「はい、また」
生徒会長は織江先輩を守るように肩を抱いていた。
なんという美形カップル…。
生徒会長はテニスをしている時とずいぶん雰囲気が違う。織江先輩が一緒にいるからかな。
考えているともう一度リョーマくんに手を引かれた。
振り返ると不機嫌そうな表情を浮かべている王子様。
「どうしたの?」
不思議に思っていると、リョーマくんがじっと私を覗き込んだ。
「さっき、あの先輩のこと、俺を見るときと同じ顔してた」
「え?」
「…綺麗なものが好きなの?」
真顔で聞かれて思わず吹き出してしまった。
リョーマくんは不服そうに私の手を握ってぶらぶらさせる。
「ばれた?」
「顔に出すぎ」
「憧れなの、先輩。美人で堂々としてて、目標なの」
リョーマくんがきょとんとした顔になる。
「俺の前にいる夢子は、いつも堂々としてるけどな」
思ってもみなかった意見に今度は私がきょとんとする。
「そうなの?」
「言葉に迷いがなくて、まっすぐしてる」
え、うれしい。
「ありがと」
「別に、ただの事実」
私に照れたのかリョーマくんがぷいと横を向いた。
「こっち見て」
ちゃんと見てくれる。意外に素直な王子様。
「ちゃんと言って」
「昨日より好きだよ」
突然の告白にまた胸がきゅぅんと締め付けられる。
「私も、昨日より好き」
まっすぐ見つめるとリョーマくんの瞳に私が映っていて、それが少し揺れた。
「…My heart aches」
「え?」
リョーマくんが少し俯く。
「ごめん、分からなかった、どういう意味?」
考える顔をするリョーマくん。
「いや、日本語でなんていうのか分からない。なんか、こう、哀しい?じゃ、ないんだけど…ちょっとニュアンスが違う…」
「うーん…哀しい?なんだろう。あー…もしかして『せつない』かな」
「あ、それだ」
リョーマくんが顔を上げてまた私を見た。
「日本語って、なんかこう、難しいよね」
「うーん、気持ちを表す単語が多いというか…繊細?かな?」
「夢子見てると、その、切ない気持ちになる。」