第3章 昨日はクラスメイト
「大人って感じだね」
小さく言うと、リョーマくんがパンを食べながら話す。
「俺たちも、すぐに大人になるよ」
腹ばいの体制から坐り直し、ついでにポニーテールを結び直した。
「そうだね、私、いますごく幸せ」
リョーマくんに向かって言うと、リョーマくんは少し照れたように視線を落とした。
「アンタって、結構ストレートに言うよね」
「名前、ちゃんと呼んで」
「夢子」
「うん、言葉にするって大切なことなんだよ」
リョーマくんは身体ごと私に向き直って、真っ直ぐ私を見た。少し緊張する。
「私、もっとリョーマくんのこと、知りたい。エスパーじゃないから、考えてることとか、もっと知りたい。思ったこととか、ちゃんと言葉にして教えて欲しいの。」
リョーマくんが微笑んだまま、うん、と小さく言った。
左手が伸びてきて私の頬に触れる。
「夢子って、変わってる。」
「時々、言われる」
自嘲気味に笑うと、リョーマくんは微笑むのをやめて、真顔でこちらを見た。
「そういうとこ、好きだと思う。」
澄んだ大きな瞳に見つめられて、また胸がきゅっとなった。
頬に当てられた手に上から触れてみる。
「ありがと」
伝わると、嬉しい。
ちゃんと、出来るだけ正確に伝えたい。
それでも伝わらない時は、触れれば伝わるんだね。
「笑った顔、すごく可愛い」
照れるけど、嬉しい。
「うれしい」
声に出して、触れられた手に顔を傾けると、今度は引き寄せられるのではなくリョーマくんが近付き私にキスをした。
顔が離れると、リョーマくんが赤い顔をしていた。
いつもはクールに見える王子様が、私に恋してるって知られたら、やっぱり大事かな。
「俺、顔赤い?」
片手で顔を隠すようにしながら、困ったように言った。
「うん」
答えると今度は下を向いた。
次の言葉を待っていると私のケータイが震えた。リョーマくんがそれに反応する。
「電話?」
「ううん、メール。あ、先輩からだ」
『下』
した?
下を見遣ると先輩と生徒会長がこちらを見上げていた。
「お前ら、そこ、高いから気を付けろよ」
「あ、部長、チィーッス」
リョーマくんが横から顔を出す。
「あ、こんにちは」
先輩がにっこり笑う。美人だなぁ。見惚れているとリョーマくんに手を引かれた。