第3章 昨日はクラスメイト
教室では、リョーマくんの方を見たらきっとにやけてしまうから、昼休みのチャイムの後は振り返らずにずんずんと歩いて屋上に向かった。
屋上は、昨日より景色が眩しく見えた。
「夢子」
名前を呼ばれ声の出どころを探すけれど、姿は見えない。
見回すと、織江先輩が屋上の隅で、彼氏さんとお弁当を広げていた。彼氏さんと一緒のとこ初めて見たな。
こちら側からは先輩の顔しか見えない。
「夢子、上」
上?
屋上の入り口の屋根からリョーマくんが覗き込んでいた。
「そこ、上がって良いんだっけ…?」
「さあ?裏にはしごあるから、上がってきて」
どうやって…
とりあえず裏へ周りはしごに足をかける。よいしょ、と声を出すとリョーマくんが手を差し伸べてくれた。
「ありがと」
「うん」
なんだかそわそわしている。
「どうしたの?」
「うちの部長がいる」
むすっとした顔で指し示す先には織江先輩がいた。
「あ、隣にいるの生徒会長か!」
言い切ったところで口を押さえられる。
「声、大きい」
「ご、ごめん」
手の下でもごもごと謝ると手を離してくれた。
「リョーマくん、でも、あれ、うちの部活の先輩」
「マジで?」
うんうんと頷くとリョーマくんは先輩達をじっと見た。
「もう少し髪が伸びたら、あの先輩みたいにパーマかけようと思ってるんだ」
リョーマくんがこちらに向き直る。
今度は私をじっと見て、髪、おろしてみて、と小さく言った。
「うん」
言われた通りヘアゴムを外すと、自分のシャンプーの匂いが香った。ついでに眼鏡も外す。眼鏡ケース、持ち歩こうかな。
リョーマくんが私の髪の毛に触れ、毛先にキスをした。
本当に王子様みたい。
うっとりと見惚れていると、リョーマくんと目が合った。
「まぁ、いいんじゃない?」
見惚れた所為で一瞬なんのことか分からず間が空いてしまったけれど、すぐにパーマのことだと気付く。
「本当?髪伸びるの、楽しみだなぁ」
自然に笑みがこぼれる。
「あの先輩、夢子と似てるね」
「うーん、容姿は、ちょっと似てるかもね。すごく素敵な人だよ。」
「ふーん」
腹ばいになって横に並ぶ。肘をついて先輩達を見ると、先輩達は穏やかに笑って、文庫本を手に何か話していた。