第3章 昨日はクラスメイト
うれしそうにお弁当を食べるリョーマくんを見て、なんだかくすぐったい気持ちになった。
「うまい」
もぐもぐと食べすすめる姿は小動物みたいで、可愛らしく見えた。
私も自分の分のおにぎりを取り出す。
一緒に朝ご飯が食べられるなんて、朝練って素敵だなぁ。
「えあえ」
「ん?」
もぐもぐしながらリョーマくんがこちらに向かって話す。
「眼鏡、二人のときは外してよ」
不遜な態度が堂に入っているなぁと思いながらも素直に眼鏡を外す。
素顔でいられるのは、やはり気が楽だ。
眼鏡をニットのポケットに入れ、リョーマくんをみると、リョーマくんもこちらを見ていた。
笑いかけると少し顔が赤くなった。
「俺、彼女出来たの初めて」
ぽつりと言うリョーマくんに驚いて、「ええっ」と大きな声が出てしまった。
「そんな驚く?」
頷くとリョーマくんがふっと笑った。
「テニス以外のことに、そんな興味なかったから」
おにぎりに手をのばし、「たらこ」の文字を確認してラップをはがす。それを見て私もおにぎりのラップをはがす。
「なるほど」
「夢子は、今まで付き合ったことあんの?」
私は苦笑いをする。
「ないよ。」
リョーマくんが興味ありげに私を見る。
「ほんと?」
「女の子に嫌われまくってえらい目に遭った話、する?」
リョーマくんは「んー」と言って考えている。
「それって嫌な記憶?」
「まぁね」
「じゃあ、聞かなくていいや」
「そっか」
話しても良かったが、話さなくて良いらしい。む、たらこの塩気がちょうど良い。我ながらよく出来たおにぎりだな。
「これから楽しい記憶、たくさん作ろう」
思いがけない言葉に驚いてリョーマくんを見ると、悪戯っ子のように笑っていた。
胸がきゅんと痛む。
「あ、泣きそうな顔してる」
「ほんと?」
「うん、悲しいこと、思い出した?」
心配そうな表情にまた胸がきゅっとなった。
「ううん、リョーマくんのこと、好きだなぁって思っただけだよ」
リョーマくんの顔が少し赤くなった。
「ふーん」
リョーマくんか空になったお弁当箱を包みに戻し、私の手を握った。ぎゅ、と握られ、心があたたかくなった。私も握り返す。
「今日、お昼一緒に食べる?」
リョーマくんの声色が優しく響く。