第3章 昨日はクラスメイト
私の気持ちを見抜くように桃子先輩が安心して、と言った。
「え?」
「安心して、越前くんが彼女出来たって今朝言い出して、私が勝手に根掘り葉掘り聞いたの。だから、つい、ごめんね。」
本当に申し訳無さそうな顔をして手を合わせる様子を見て、彼女を一瞬でも疑った自分を恥じた。
「ちなみに、眼鏡、外して見せてもらっても…いい?」
今度は手を合わせながらも桃子先輩は期待した表情をしている。なんて無邪気な雰囲気の人なんだろう。
「ふふ、じゃあ、特別ですよ?」
もったいぶってそう言ってから眼鏡を外し、にっこり笑って見せた。
桃子先輩がぽかんと口をあける。
すぐに眼鏡をかけ直すと、桃子先輩が「天使ー!本当美人!!かわいーっ」と言いながら抱き付いてきた。
驚きながらも先輩を抱きとめる。
「夢子!」
首だけ振り返ると、ずっと会いたかったリョーマくんが、既に制服姿でこちらを呆れた様子で見ていた。
「リョーマくん!」ホッとして笑いかけると、先輩が私から身体を離した。
「桃子先輩、遅すぎ。」
「あはは、ごめんごめん。あんまり可愛かったから」
てへへ、と舌を出して笑う先輩はやはり可愛らしく、私もふふふと笑ってしまった。
「頼むっスとは言ったけど、浮気しといてとは言ってない」
リョーマくんが先輩から私を引き離し、しっしっと手を振った。
「あ、ひどーい、ちゃんとファンの子に気付かれない様にしたもんね。私だって桃にお弁当持ってきてるんだからもう行きますよーだ」
笑顔で夜野ちゃん、またね、と先輩は走り去って行った。
「桃子先輩、マネージャーっていうより、プレイヤーっぽいね」
リョーマくん、と続けて言いながら視線を戻すと、リョーマくんがこちらをじっと見ていた。
「お、おはよう」
改めて挨拶をする。
「おはよ」
リョーマくんの、にっと笑う顔を見て、胸がきゅーんと締め付けられる。
「ここ」
「ん?」
「ここ、もうしばらくは誰もこないから」
更衣室からも死角になるベンチに並んで座り、お弁当を広げた。
「はい、どうぞ」
「うわ。うまそう」
「ふふ、おいしいよ」
昨日と同じく、きちんと手を合わせいただきますをするリョーマくん。
「どうぞ、召し上がれ」