第3章 昨日はクラスメイト
人気なのは知っていたけど、ここまでとは。
本当にアイドルみたい。
ぽかんとその様子をみていたけれど、私は自分の目的を思い出した。
ぴょこぴょこと背伸びをして女の子達の向こうにリョーマくんを探すが見当たらない。奥のコートかな。
視線を移すと、バインダーを手にしたショートヘアの女子が近付いてきた。
目が合ったので、慌てて会釈をする。テニス部の人かな。リョーマくんのことを聞こうと口を開くと、彼女はしーっと人差し指を立て口の前に持ってきて、静かに、の仕草をした。
そして彼女は私の後ろを指差した。
振り返ると、支度をするテニス部のファンの女の子達。
意図が分からず首を傾げてると、彼女がさらに私に近付く。内緒話をする様に手で口を覆い、私の耳元にささやいた。
「越前くんの彼女だよね?」
驚いて声を出しそうになったところを、なんとか自分の手で塞ぐ。
ぶんぶん首を立てに振ると、彼女は面白そうにこちらを見て、『こっち』と私の手を引いた。
大人しくついて行くと、部室と建物の死角にあるベンチに案内された。
そして振り返る彼女。改めて見ても可愛い人だ。ぱっちりした二重に元気そうな表情が、スポーツ少女って感じ。
「急にごめんね、越前くんから聞いてたから。私、桃子。2年の安藤桃子。男子テニス部のマネージャーなの」
手を差し出され、つられて握手をする。少し私より大きく、温かい手に安心して私も自己紹介をした。
「うんうん、今日越前くんが、彼女が来るから、女子達に見つかんないように頼むッス、って言ってたから」
桃子先輩がリョーマくんの少しぶっきらぼうに聞こえる話し方を真似て、それが似ていて笑ってしまった。
視線を感じ先輩を見ると、桃子先輩は私を、じっと見ていた。
「?」
「あ、ごめんごめん、越前くんが、笑顔に惚れたって言ってたから、つい見ちゃった」
「え」
てへへ、と笑う桃子先輩を見て、可愛いなぁと思いながらも、越前くんが部活でどこまで私のことを話したのか気になった。
顔が強張るのを感じた。