第3章 昨日はクラスメイト
お気に入りの曲をセットしたアラームよりも先に目が醒めた。
いつもより1時間早い。今日から越前くん…改めリョーマくんのお弁当を作ることになったので、目覚ましを1時間早くかけたのに、それよりも早く目が覚めたことによって、浮かれている自分を自覚した。
朝練の後に食べるだろうから、消化に良いものと、フルーツかな…
昨日引っ張り出した、お兄ちゃんが使っていたお弁当箱にどんどんおかずを詰めていく。
おにぎりを3つ握ったところで、リョーマくんがどのくらい食べるのか知らないことに気付いた。
しまった、聞いておけば良かったな…。今日でいいか。
だって、嘘みたいだけど私、彼女だから。
起き出してきたお母さんに、「ごめーん、おかずあるから自分で詰めてね!」と言いながら制服を着る。お気に入りのグレーのニットを羽織った。
「行ってきまーす!」
はやる気持ちを抑えながら、お弁当を持って意気揚々と歩く。
早い時間だからバスも空いていて快適だった。
早起きは三文の得だわ。
秋口のさわやかな気温に足取りも軽く、あっという間に学校についてしまった。
迷わずテニスコートに向かう。体育の授業以外で近付いたことのなかったテニスコート。
リョーマくんの姿を探そうとコートに近付くと、昨日も聞いた、キャーっという嬌声が耳に入った。
思わず怯んだが、そこに交わるわけではないし、気を取り直してそっと後ろの方からコートを眺める。
「ほいほいっと」
身軽にコートを動く、猫みたいに機敏な動きの先輩が、ノックされたボールを綺麗に返していく。菊丸先輩。校内でも有名な人だ。
あんな風に動けたら、気持ち良いんだろうな。
そしてまた別の方向から歓声があがる。
声の方を見ると生徒会長の手塚先輩が、一息ついてタオルで汗を拭っていた。
どう見ても中学生に見えないそのルックスは、雑誌のモデルの様だった。
生徒会長の近くに特徴的な髪型の先輩が傍に寄り、肩をポンと叩く。言葉を交わしながら生徒会長は頷いてこちら側を向いた。
「そろそろ、朝練もおわる。君達もきちんと授業の支度をしに戻りなさい」
まるで先生みたいに女の子たちに言い聞かせると、女の子達は皆一様に「はぁ〜い」と甘い声で返事をした。特に粘る事もなく素直に撤退する各々の様子を見て、開いた口が塞がらなかった。