第2章 ただのクラスメイト
「親がね、うるさいし、怖い目にも遭ったことがあるから、基本的には外さないの」
苦笑して話す夜野を見て、なんとなく苦労してるんだろうな、と思った。
「知ってた」
夜野が驚いて顔を上げた。
「どうして、知ってるの?」
「入学式で、校舎裏の人がいないとこで、親と写真撮ってたでしょ」
「ああ」
今度は諦めたような顔でこちらを見た。
表情がころころ変わる。
「越前くんは、美人の私が、好き?」
「いや」
美人だとは思うけど、別にそこに興味がわくわけじゃない。素直に答える。ぎゅっとスカートの裾を握りしめ俯く夜野を見て、緊張してるんだな、と思った。
「俺は、料理上手なアンタが好き、かな」
卵焼き、美味かったし。
「あ」
途端に大きな瞳にらみるみる涙が溜まった。やばい、泣くの?なんで
「なんで」
あ、声に出た。
まだたきをした拍子に涙の粒が、ぽたりと音を立てて制服に涙が落ちた。
「ごめん」
咄嗟に謝ったが泣いてしまった女の子にかける言葉が見つからなかった。眼鏡とられたの、そんなに嫌だったのか。
「誰にも言わないから、本当、ごめん」
慌てて続けて謝罪すると、夜野が手を前に出し、
「違う、違うから、大丈夫だから、急に泣いたりしてごめん」
と言った。違うの意味は分からないが、怒ってはいないらしい。
「俺も、顔が、とか、見た目で好きとか言われるの嫌いだから、少しは、分かる 、つもり」
あー、なんて言ったら良いわけ?
「うん、ありがとう」
俯いた顔を上げて、夜野が優しく笑った。
俺は自分が恋に落ちる音を初めて聴いた気がした。コトン、とか、カタン、とか、そんな感じ。木の積み木が落ちるような、乾いた音。
そしてテトリスがぴったりハマったような、形容しがたい気持ちだった。
顔に熱が集まる。
「ごめん、俺、やっぱり、アンタの顔も、好き」
思ったまま、素直に言った。夜野が微笑む。
「ごめん、今日、私も授業中越前くんの顔に見惚れてたよ」
見惚れてたのか。何か用があるんだと思ってた。
「ふーん」
くすくすと笑う姿を見て、胸の奥がざわついた。
これがどういう気持ちかなんてどうでもいいけど、休み時間が終わらなければ良いのに。