第2章 ただのクラスメイト
涙を擦ろうとするから思わず手首を掴んだ。
なんでこんなことしてんだろ。
夜野は驚いた顔をしたけど、自分でも驚いた。
「こすると、目、赤くなるよ」
「あ、うん、ありがとう」
手が離せない。目が離せない。
「夜野」
「うん」
夜野は真っ直ぐ俺を見ていた。
「今日、部活ある?」
「うん」
「一緒に帰ろうよ。少し付き合って欲しいところがあるから」
「うん、いいよ」
瞳の奥に映る自分の姿が微かに揺れる。
「じゃあ、部活が終わったら、正門のとこで待ってて」
「うん」
やっと手首を離し。代わりに今度は頬に手をあてた。夜野の潤んだ瞳が、また落ち着かない気分にさせた。親指でそっと涙の跡を拭って、眼鏡をかけさせた。
「ちゃんと掛けといてね」
俺がとったんだけど。
「うん」
予鈴が聴こえる。
「じゃあまた後で」
くるりを踵を返し校内に戻る。筋肉の緩む顔を少し両手で叩いた。ぺち、と小気味の良い音がした。
まさか、今更一目惚れなんて、そんな馬鹿な。
自嘲気味に口の中で呟いたけど、言葉にするとなんともしっくりきた。一目惚れ、か。
熱くなった手のひらを後ろ手に組んで歩く。
濡れた瞳はこっちを真っ直ぐ、少し挑戦的に見ていて、目がそらせなかった。
教室に戻るといつもの空気だった。
屋上の出来事だけが、なんだか違う空気みたいだった。