第1章 クラスメイト
「いままで、なんとも思ってなかったのに、素顔が美人なことも知ってたのに、今日思ったから、やっぱり一目惚れだと思う」
バツが悪そうに自分の髪に手をやる越前くんを見て、私からも言わなくちゃ、と口を開こうとしたら唇を塞がれた。
すぐ離れた越前くんは少し余裕を持った顔をしていた。もうそんなに赤い顔してない。ずるい。
「好きだよ。俺と付き合ってよ。」
ストレートな言葉。自信に満ちた表情を見つめ返し、私も答える。
「順番、間違えてるよ」
越前くんは。あー、確かに、と小さく言った。
気を取り直して、私も言うべきことを言う。
「私もね、今日、一目惚れしたの。生まれて初めて」
「ふーん」
越前くんと見つめ合ったまま話す。緊張と、胸のときめきにくらくらする。
「授業中、その人私に向かって『まだまだだね』って、声に出さずに言ったの。その顔見て、あ、好きだなって思ったの」
越前くんは相変わらず不敵な笑みを崩さない。
「私の方が先に越前くんのこと好きになったんだよ」
にっこり笑うと越前くんがみるみる赤くなった。
「越前くん、私の笑顔に惚れたんだね。」
「なっ」
慌てる様子に私にも余裕が生まれる。
「私、顔以外はきっと、普通だよ」
越前くんが意外そうな顔をした。
「何か秀でて出来る事もあまりないし、すぐに飽きちゃうかもよ?」
一度傍に行ってしまったら、もう戻れなくなる。
「それでも、俺は夜野が好きだよ」
越前くんは私の目を見たまま言った。
今度は目頭が熱くなる。全然自分らしくいられない。好きって厄介だな。
「あ」
泣き出しそうな私を見て越前くんが慌てる。
涙は拭わなかった。歪んだ視界で越前くんを見据える。
「好きだよ。越前くんのこと」
目には涙が溜まり、越前くんの顔はほとんど見えなかった。
少しだけ間が出来たがぐい、と手を引き寄せられ、そのまま抱き締められた。
外の空気で冷えた学ランに私の涙が染み込む。
「良かった」
越前くんが小さく言った。
「え?」
「良かったって言ったの。だって俺、一目惚れなんかしたことなかったし、夜野の気持ちも全然聞いてなかったし」
堂々としているように見えた越前くんが、私のことを考えて今日一日悩んでいたのかと思うとなんだか可笑しくてふふ、と笑い声を出してしまった。