第1章 クラスメイト
「とりあえず、眼鏡外して」
「え?あ、うん」
繋いだ手を離し、眼鏡を仕舞った。
向き直ると越前くんが再び私の手をとった。
ベンチに並んで座る。夜風は冷たいが繋いだ右手が熱かった。
越前くんは夜景を見せてくれようと思っていたんだろうか。
真意が分からず越前くんを見た。
王子様は何か言おうとしているようだった。
昼休みに見た、言葉を選ぶような顔。
瞳がきらきらして見えた。越前くんがハッと顔を上げる。
目が合うだけで胸が締め付けられた。
きゅん、と痛む胸に思わず手をやると、越前くんがそれを見ていた。
「苦しい?」
何気なく聞いたんだろうけど、私の胸はますます苦しくなった。
「・・・うん」
小さく頷いた。
「俺も」
「えっ」
「なんでもない」
暗いから分かりにくいかど、越前くんの顔も少し赤いようだった。
「緊張するから、夜景でも見てて」
「あ、はい」
「俺さ、…」
緊張か…
続きの言葉を待ったけれど、越前くんは押し黙ったまま動かない。
手の熱を心地良く感じながら、夜景を眺める。静かな夜の空気が気持ち良くて息を吸った。
突然、握られた手に力が込められる。
「…一目惚れって、したことある?」
少し震える越前くんの左手を握り返した。
視線を右手から夜景に移して答える。
「あるよ」
越前くんは手に込める力を抜かないまま、私の言葉にぴくりと少しだけ反応した。
「…いつ?」
「内緒。でも1回だけ」
今日とは言えず濁した。
「俺、なかったたんだよね」
なかった?
要領を得ない言い方に首を傾げた。
「えーと、だからさ、俺、アンタに、夜野に、今日一目惚れしちゃったんだよ」
「ええっ」
思わず越前くんを見ると、表情は変わらないまま顔を赤くして夜景を目をやっていた。
「いや…そんなに驚かなくても」
「えと、だって、今日って言わなかった?」
恥ずかしさで視線を膝に落とした。
「言った。だから今日一目惚れしたの。昼休みに」
「それって一目惚れって言う?」
「うーん、やっぱり言わないのかな。でもさ、今日夜野が泣いた後の、笑った顔見て、好きだと思っちゃったんだよね」
好きの言葉に反応して自分の体温が顔に集まるのを感じた。暗くて良かった…。