第1章 クラスメイト
あ、次の信号赤だ。止まりそう。
自転車の速度がゆるやかに落ちる。ホッとして力をゆるめたせいで、キッと止まった瞬間腕が離れてしまった。
越前くんに抱きつく形でつんのめる。
「わ、ごめん」
慌てて態勢を戻したが、越前くんは黙ったままだった。
「越前くん・・?」
「やわらかかった」
「ちょっと!」
肩を揺さぶる。越前くんは、ちゃんと掴まってないから、と言いながらのけ反りこちらに体重をかけた。
「あっちょっと」
私の胸元に越前くんの頭が収まる。
「リボン邪魔だな」
「もう、ほら、青だよ」
「ちぇー」
思わぬハプニングに心臓が早鐘を打ち鳴らす。
ロマンティックとは程遠い事故に少し冷静になってきた。駅を通過し少し経ったところで越前くんに尋ねる。
「どこ、行くの」
「内緒」
短く答え会話を切られてしまった。そっか、と小さく呟いたが越前くんには聞こえていないだろう。
小さめの坂道が続き、少し高いところに来たことに気が付いた。
「坂道、降りようか?」
「いや、大丈夫」
少しだけ息を切らした越前くんの声を聞いて、なんだか落ち着かない気持ちになった。
「もうすぐだよ」
辺りは日が落ちてもうだいぶ暗い。上を見ると星がちらほら見えた。
今度はわざと乱暴に止まったのがわかった。また腕が滑る。抱き付くようにもたれるとその腕を越前くんが掴んだ。
頭を前後にうごかす。ぽふ。と私の胸に頭を置いて「お~」と小さく言う越前くん。
「ちょっちょっと、待って」
慌てて越前くんの頭を押しやり自転車から降りた。
越前くんは何事もなかったかのように公園の入り口に自転車を止めた。
「ん」
手を差し出す。黙って手を乗せると握られた。
「こっち」
「うん」
ずんずん歩く越前くんに続く。手は繋がれているから置いていかれることはない。街頭が少なく薄暗い道を慣れた足取りで歩く越前くん。
「よく来るの?」
沈黙が気になり声を出す。
「時々ね」
開けた場所に出ると夜景が目に飛び込んできた。
「わ、すごい」
高台の公園なんだろうか、街の光が遠目に見えて見事な夜景だった。
「綺麗」
越前くんに向かって言うと、越前くんは私を真っすぐ見ていた。
射抜く様な視線に恥ずかしくなったが、目を逸らせなかった。
越前くんも緊張してる。繋いだ手から熱が伝わる。