第1章 クラスメイト
余程テニスが好きなんだろうな、と思える速度で越前くんは作業を終えてしまった。
「じゃあ、またあとで」
と、出て行った越前くんを見送って図書室の鍵を締めた。
あとで部室の鍵と一緒に返せば良いだろう。
数歩先の部室の前に立ち、こんこんとノックする。
「はーい」
先輩の柔らかい声を聞いてからガラガラと扉を開ける。
「ただいま戻りました」
先輩は編み物から手を離して立ち上がる。
「早かったのね、紅茶、すぐ淹れるわ」
「あ、ありがとうございます。あと、私今日シフォンケーキ焼いてきたんです。如何ですか?」
「えー!おしゃれ!一緒にいただきましょう」
大人っぽいのに無邪気な様子で喜ぶ織江先輩を見て、なんだかくすぐったい気持ちになった。
まるでお茶会部ね、と、顧問の先生はよく言うけど、特に咎められもしないのでお茶会の様になっても良いらしい。
つかれたー、と呟いて机に伏せると先輩の編み物が目に入った。縄目模様が入っている。
「セーターですか?」
先輩の背中に話しかけると、先輩は首だけこちらに傾げた。
「そう、クリスマスに間に合うかは、微妙」
ふふふ、と声を出して笑うがきっと先輩はクリスマスまでに完成させてしまうだろう。
「そういえば、夢子、今日は相談があるって言ってなかった?」
「あ、はい」
「好きな人でも、出来たの?」
紅茶を、受け取りながら答える。
「はい」
「どんな人?」
「王子様なんです」
「どこの国の?」
「私のクラスの」
先輩は少し考える様な顔をして、テニス部かしら?と小さく聞いた。
「はい。先輩達の学年でも、やっぱり人気ですかね…」
「人によるけど、レギュラー陣はアイドルみたいな人気ね。みんな整った顔をしているし、良い人だし。」
「その、越前くんが隣の隣の席なんですけど、今日たまたま隣の席がお休みで、窓際にいた越前くんが横を見ると目に入って、綺麗な顔だなーと思って見てたら、目が合っちゃって。」
先輩は黙ったままふんふんと頷く。
「目が合って、向こうと見つめ合ったみたいになって、好きになっちゃったんです」
「素敵」
「もう、なんか胸が苦しくなっちゃって」
「うん」
先輩は話の腰を折ることなく、相槌をしながら真面目に聞いてくれる。