第14章 テニスと王子様
先輩の絵のモデルを了承してから、中庭の桜の前に座って本を読めと言われ、放課後は二人で桜を占領した。
この桜の下で告白したい人がいたら、絵が完成するまで待ってもらうか、お昼休みにしてもらうしかないだろう。まぁ、基本的に桜の咲いていない季節には、ないか。
ただ座り込んで本を読むだけ、と指示されたけれど、相変わらず本の内容は頭に入ってこなかった。
少しぼんやりしながら、なんとか文字を追うけれど、なかなか難しい。
ため息をひとつ吐くと、「カシャ」と携帯のカメラのシャッター音がした。
「織江先輩、撮影料高いっすよ」
「あら、その言い方越前くんにそっくりね」
「え」
あっという間に頬が熱くなっていく。
「褒めてませんよ」
先輩が笑うけど、私には褒め言葉以外のなにものでもなくて、顔が緩みそうになる。
「素直で可愛い夢子が越前くんに似ていって、どんどん生意気になっちゃう」
「私、そんなに素直でした?」
「ううん、もとからまぁまぁ生意気だった」
「えー」
「さて、今日はこんなとこにしましょうか」
先輩は消しゴムのカスを払って、画板をそっと大きなバッグへ仕舞った。
「はーい」
立ち上がってスカートの裾を直すと、テニスコートの方に竜崎さん
を見つけてしまった。
胸が痛くなる。
リョーマくんといる時とは違う、つらい痛み。
全然甘くない。
長い三つ編みを揺らしながら懸命に素振りをする竜崎さんは、女子から見ても可愛らしい。最近フォームが綺麗になった気がする。
見た目としては同じ系統のはずなのに、あのおっとりした真っ直ぐな雰囲気は、私の心をざわざわさせる。私の性格が悪い気がして苦しい。
ううん。決して良くないから、余計に心配になる。
「桜乃ーっ」
ツインテールを揺らして「ともちゃん」が走ってくる。
「ともちゃん」
笑顔で振り返った竜崎さんと目が合った。
あ、逸らせない。
驚いた表情のあと、少し目を伏せて悲しそうな表情になった竜崎さんを見て、また胸がズキリと痛んだ。
視線に気付いた「ともちゃん」が私を見て、「げ」と言った。
それにはあまり傷付かなくて、「ともちゃん」を一瞥して先輩に向き直ると、先輩が困ったように笑った。
「泣きそうな顔してる、部室に戻ろ?」