第14章 テニスと王子様
「こんにちは」
いつもの透き通るような声。
「こんにちは」
振り返るとやわらかなウェーブを風にそよがせた織江先輩が首を傾げて微笑んでいた。
綺麗…。
「口があいてるわよ」
慌てて閉じると織江先輩はクスリと笑った。
西日が当たって細い髪がきらきらとして見える。
髪留めのお礼に、私からも何かあげたいなぁ。
「セーターは完成した?」
「あ、はい、思ったより早く出来てしまったので、渡しちゃいました」
「そうなんだ、完成見てあげられなくてごめんね」
「良いんです、先輩が選んでくれた本、分かりやすかったし」
「それは良かったわ」
先輩がにっこりすると桜が咲いたようだった。
「夢子、文化祭でやる絵画、今年も参加するんだけどモデルやってくれない?」
「え、私で良いんですか?」
「うん」
「手塚先輩じゃなくて?」
「今回はイメージじゃないのよね…」
「えと、私で良いなら」
「夢子が良いのよ。イメージにぴったり」
「どういうテーマなんですか?」
「はつ恋」
「え」
妖艶にも見える先輩の頬笑みに心臓が掴まれるようだった。
「ああ、そういう表情、そんな感じなのよ」
惚けていたであろう私の頬を、むに、と掴んで引っ張りながら、先輩が言った。
「いひゃいれす」
「場所は桜の下よ。放課後しばらく付き合うこと」
「あい」
「夢子、また、浮、気、してる」
息を吐きながらリョーマくんが歩いていた。もう10分経った?
「だって、私の方が夢子との付き合い長いもん」
織江先輩が私を後ろから抱きすくめた。
リョーマくんがむすっとして「そーっすね…」と言った。